峡谷で出会った彼女達―――ミラ達と共に頂上を目指すこととなった

その理由を老紳士な方であるローエンに教えてもらう


「つまり、ローエンさんの主人を含めた町の人を助けに来ているんですね?」

「はい。クレイン様は民の危機を感じられて、此処へ向かわれたのです。一刻も早く助けなければ命に関わるでしょう」


説明をしてくれていたローエンの表情が僅かに沈痛な色を見せる

恐らく、あの時ミクニが見たのがクレインという方であり、ローエンにとって大切な人だろう


「早く頂上へと行き、助けましょう」

「それにしてもミクニさんは良いのですか?お気づきでしょうが、この件には軍が関わっています。それは―――」

「言いだしたのは私です。例え、これが一国の重要な事に関わる事だとしても、見過ごすわけにはいきませんよ。違いますか?ローエンさん」

「確かにそうです。ですが生半可な覚悟で出来ることではありません。礼を言いますよ、ミクニさん」


彼の言うとおり、興味本位で関わってはいけない事柄だろう

運が悪ければ、軍を―――国を敵に回す可能性だってある

けれど、ミクニは見過ごすわけにはいかない

精霊の事もあるが、何よりも“仲間達”はそうするだろう


(人として正しい行動を、私はしなくてはいけないのだから)


「まだ何もしていませんよ。ローエンさん」

「いえいえ。このような綺麗な女性に手伝ってもらえるだけでも幸運なのですから」

「え?…ローエンさんって、面白い方ですね」


不意を突かれたミクニだったが、次には頬笑みを浮かべる

上品な振る舞いをしているが、堅苦しさを感じさせないローエンに好感を抱く


「良ければミクニさん。私の事はローエンと御呼び下さい」

「いいんですか?」

「はい。普通に接してくれた方が私も嬉しいので」

「それじゃ…ローエンだね」


僅かにローエンと打ち解けていたミクニだったが、ローエンではない別の視線に気づく

ローエンから視線を外してみれば、青年と目が合った


「何か?」

「…いや。じいさんの言うとおり綺麗な女性だから、ついつい視線が追っかけちまうのさ」


彼―――アルヴィンは軽い口調でそう言うが、何故かはぐらかされた気がした

自己紹介の時も、彼は何処か普通とは違っていたと、ミクニは長い経験から感じていた

深く考えても仕方ないが、彼がどうも仲間の1人と似たモノを持っている気がするのだ


「アルヴィン君、いやらしぃ〜」

「単なるコミュニケーションの一環だ」


(…単に女癖が似ているとか…?)


紫の物体がアルヴィンの周りを浮遊する様子を眺めていれば、その物体はこっちへと向かってくる

思わず瞳を丸くしてしまえば、人形のようなティポを追いかけて少女が近づいてきた


「ティポ…!下りて来て!」


小さな少女エリーゼが一生懸命に手を伸ばす

けれどティポは浮遊をやめないようでミクニの周りを飛んでいた


(…本当、変わってるな)


ティポの行動に思わず歩みを止めていたミクニは、目の前に来た瞬間に彼を捕まえてみる


「捕まっちゃったー!」

「ティポが…ごめんなさい、です」


人と慣れていないのか、控えめなエリーゼの姿にミクニは笑いかけながら、手の中で動くティポを渡す

ティポを受け取ったエリーゼは、そのまま腕に抱き抱えた

少女らしい姿に思わずミクニはその頭を撫でてしまう


「…ぁ…!」

「…嫌だった?」


しまったと思っていれば、エリーゼは頬を赤らめて首を振る


「いいなぁ、エリー。ミクニ君、ぼくも撫でてー!」


言葉はなかったが嫌ではないと知れて安心したように口元を緩めれば、ティポが身体をくねらせて頭を出してくる


(不思議だけど…ティポも可愛いな)


そうやって和んでいれば、先頭を歩いていたミラとジュードの歩みが止まる

目の前には崖があり、ミクニはこの上が頂上だと察する


「…きつそうだけど、エリーゼ登れる?」

「が、頑張ります…!」


幼いながら、一緒に行動している彼らの足を引っ張らないよう努力しているのだろう

健気なエリーゼの姿に感心しつつ、ミクニは彼らと共に頂上へと登った




緊迫の中にもう時間があっても、悪くない



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