「陛下」


ガイアスの元に現れたのは四象刃のリーダー格であるウィンガルであり、彼は手に入れた情報を伝える


「アグリアからの連絡から、例のカギの入手はある者の邪魔が入り、奪われたようです」


忠実なる部下をイル・ファンへと潜り込ませて得てきたモノは、ラ・シュガルが造り出した驚異的な力を発する―――クルスニクの槍という兵器だった

だが、それを起動するための“カギ”は第三者によって奪われたと言う

その答えをガイアスが静かに待っていれば、意外な答えをウィンガルは口にし出す


「相手は1人の女であり、四大精霊を操っていたとのこと」

「ほぉ……アグリアが言うのであれば、四大は本当であろう」


20年前に四大精霊である大精霊の召喚は誰にも出来なくなった

だが、その召喚が出来、四大全てを使役しているとなれば、単なる人間とは思えない


「既にカギの奪還にはプレザに任せましたので問題はないでしょう。それに、その女の元にも駒を潜り込ませていますので」


参謀の彼が出している指示にガイアスが付け加える要素はなく、“カギ”の件は終えたように見えた

けれど、ウィンガルは去ることなく、毅然たる王に向けて続ける


「それとミクニの事ですが…ミクニが感じたのはやはり、クルスニクの槍の起動によるものかと」

「そうか…」


その言葉だけを聞き、ガイアスはウィンガルを下らせた




まだ明るい時にも関わらず静かな部屋

静寂を邪魔しないように静かに扉を閉め、部屋を訪れた彼は見えた影を見下ろす

その存在に気づくことなく瞼を閉じたままの人物の傍らに腰を下ろした


「…ミクニ」

「…ん…」

男らしい指が皇かな肌を撫で、確かめるように滑っていく

その行為に僅かにミクニの声が漏れるも、瞼が持ち上がることはなかった

精霊が消えた事を悟り、自身の事のように心を痛めたミクニは、あの後疲労に襲われたように眠りに落ちた

その原因はウィンガルが報告した通り、クルスニクの槍で間違いないだろう


(やはり、お前の力はクルスニクの槍を感じ取っていたのか)


ミクニが精霊の異変を感じている事を知っていたが、ガイアスがその原因を言う事はなかった

クルスニクの槍にミクニを近づかせないためにも、その存在は隠し通してきた


(あの男が知れば、お前は)


ミクニの肢体を見渡し、再びその顔へと目を向ける

その内に宿るモノを感じるように触れたままの手は、ミクニの体温を感じ取っていた


「ミクニ―――…」


最後にもう一度名を囁き、ガイアスはその肌から手を離した

腰を上げ、部屋を出て行こうとする音が鳴る

その音を聞いて、彼の代りに光が生まれるとそれはミクニを優しく見下ろしていた


「…っ…ぅ、ん」

「起きたか?ミクニ」

「…、…エル…」


覚醒しきっていない瞳で自身の隣に居てくれる彼を確かめる

柔らかな笑みで見守られる中、ミクニは辺りを見た


「エルシフルが、居てくれたの?」

「…いや、私ではないよ」


ミクニは自身の頬へと触れる

先程まで自身ではない誰かが触れていた感覚がしていた


(誰かが、居た気がしたのに…)


「先程…誰かが来ていたようだ。恐らく、あの男だろう」


思案するミクニは、エルシフルが言った言葉に瞳を上げる


「ガイアス…?」


“あの男”と形象をしても、すぐにその名を口にしたミクニに人に似た彼は瞳を細めた

その瞳に気づき、ミクニは眉を顰めた


「何よ?エル」

「いや、何でもないよ」

「…それならいいけど」


問いただすことなくミクニは口を閉ざし、表情を変える

彼女が考えている事を察し、エルシフルも笑みを消した


「それより、エルシフルも感じた?」

「ミクニ程ではないだろうけど、多くの精霊が死んだのは確かだろう」


自身の身で既に知っているとは言え、エルシフルから言われてミクニは胸が痛む

それに連なる様に、精霊たちの叫びが想い出される


「…私、その原因を確かめに行こうと思う。どのような理由があるにしろ、この世界にいいと思えないから」


この世界の全てをミクニは知っているわけではない

けれど、このまま放っておけば、この世界が何れ混乱に陥るように思えた


「それに…―――」


抱える疑問が溢れる

教会に残された文字が浮かぶ



世界に隠されたが、誘(いざな)う



  |



top