指先が肌を掠めた瞬間、ミクニの身体が小さく反応を示す

そのまま肌の上をなぞる様に滑っていき、背中へと手を回した

苦しい息遣いをするミクニに熱を分け与えるために引き寄せる


「…あったかい…」


小動物のように震えていたミクニが小さく安心の声を出す

どのような顔で言っているのかガイアスにはわからず、ただその身体を包み込む


「ミクニ…」


腕の中の存在が、自身へと触れた

その行動に彼女の名を呼ぶが返事はない

荒かった息が少しだけ落ち着いている様子から、風邪の苦しみが和らいだのだと知る


「…ミクニ」


柔らかな匂いで誘ってくる髪を撫でる

無意識にミクニの名を口にする己に嘲笑いたくなる気持ちになる


(1人の女に、これ程の想いを抱くとはな)


どんなに美しい女が現れても、彼が特別な想いを抱く事はなく、守るべき民の1人としての対象から抜け出す事はなかった

けれどミクニは、その枠から抜け出した

異質な立ち位置もあっただろうが、ミクニの行動はゆっくりとガイアスの中へと溶け込んできていた


(だが、悪くはない)


頭から耳へと伝い、ミクニの頬へと手を滑らす

自身の腕の中で安らかな眠りへと落ちている顔を己へと向ける

ガイアスに対して信頼を抱いている証拠か、ミクニは穏やかなままだった


「ミクニ」


その寝顔に向けて、囁く

ガイアスの吐息にミクニが小さく声を漏らす


「…ゆぅ…、り…」


言葉らしき声にガイアスは眉を顰める


(誰かの名か)


声を潜め、その口の動きを待つ

先程よりもはっきりと、ミクニがその名を口にした

ガイアスの胸へ触れていた手に少しだけ力が入る

その様子に、その名が特別なモノだとわかり、胸の底から醜い感情が這い上がってくる


「…ユー、リ…んっ…―――!」


その名を許さないとばかりに、ガイアスはミクニの唇を奪った


「…ミクニ」


突然の息苦しさでミクニの睫毛が震え、瞳が薄らと開かれる

その拍子に涙が流れていった

その姿を息が掛る程に近い距離で見下ろす


「嫌ならば、抵抗をしろ」


いつにも増して低い声で囁く

恐らくミクニは理解しきれていないだろう

ガイアスは、熱で紅く濡れそぼった唇を再び塞ぐ

先程のような生易しいものではなく、深いモノへとするべく舌を忍びこませる


「んぅ……っふ…」


閉じ切っていなかった歯列の隙間をなぞり、奥へと入り込む

舌を捉えようとすれば、艶を帯びた声が漏れてくる

小さくミクニの手がガイアスの胸を押す

だがそれを抵抗の意志と捉えることなく、ガイアスは舌を絡ませていった


(お前を放したりするものか…)


互いの唾液を絡め合わせていれば、抱きしめていたミクニの身体が熱を高めていく

犯していた咥内を一度解放すると、厭らしく糸が引いた


「ミクニ…俺の名を呼べ」

「…ぁ…はぁ…、」

「俺の名以外は口にするな」


熱を帯びた瞳がゆっくりとガイアスを捉える

朧な意識でミクニはあの名を持つ者の影を見ているのだろうか

そう思うだけで激情が生まれてしまい、己の名を呼ばせようとする


「…はぁ…ガイ、ア…ス…」


艶やかな音色にガイアスがほくそ笑む

激しくわき立っていた感情が少しずつ穏やかになっていく


「誰にも渡しはしない」


(お前が望んだとしても、帰しはせん)


「ミクニ―――」


喩え卑怯な行為だと言われても、この熱が止まることはないだろう




翼をもいでしまえと囁く、んだ衝動



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