毛布の隙間から空気が入り、たったそれだけで急激な寒さに感じた
 
身震いがしたが、すぐに空気が暖まりだしていく


「…ガイアスは、いいの…?」

「言ったのは俺だ」


すぐ近くでガイアスの声がする

彼の露わになった上半身が目の前にあり、熱でやられている頭でも意識してしまう


(そんな歳でもないのに)


ガイアスの腕が伸び、直接肌に触れられる

背中に感じた感触の直後に僅かな隙間が埋まった

触れられている箇所からガイアスの体温が伝わり、寒さが薄れていった

その感覚で残っていた恥じらいが少しずつ消えていく


「…あったかい…」


(こんなに人って、暖かかったんだ)

(忘れてた)


包み込んでくれる暖かさに辛さが和らぐ

熱も、気だるさも、楽になった気がした


(…懐かしい、な)


ミクニは感じる温もりに、想いを馳せる


(昔は、…)


もう何年も前かわからない

でも、確かにこうやって人と触れあっていた

大切な人と肌を寄せ合って生きていた


そう、生きていた


暖かさに酔いしれてしまいそうになったミクニの胸が締め付けられる


(懐かしい、なんて…私)

(ダメなのに…)


“ ミクニ ”


その心中を見抜いたように誰かが名を呼ぶ

ガイアスかと思いたくとも、声が違う気がした


“ミクニ…”


もう一度、呼ばれる

今度は気のせいではない

確かに違う声だった


(…あっ…)


捜す前に姿が見える

ずっと其処に居たように、彼は居た


(…ユーリ…)


漆黒の髪と瞳

若い頃の姿が其処にある


(これは…夢、か)


わかっている

もう彼はいない

元の世界を捜したって、存在しない

それでも、紡いでしまう


(…ユーリ)


夢の中でも彼は、不敵な笑みを向ける

ミクニが懐いている印象がそうしているのだろう

ユーリの指が伸びる

その指から現実と錯覚する温度を感じてしまう


“ミクニ、お前は―――――”


続いた言葉に彼に懐く感情が溢れる

でも、それは“愛しい”モノとは違うモノが大半で


(言わないで)

(聞かさないで)

(私は、嫌なんだよ)

(私は、望んでいなかったんだよ)

(知っていた、はずでしょ)


夢だとわかっていても、彼への感情は消えない

そのことを頭では理解しているのに、ミクニの心は叫んでしまう


「…ユー、リ…んっ…―――!」


彼へと縋ろうとすると、唇が塞がれた


「…ミクニ」


囁くような低い声に生理的な涙が落ちていく

熱のまやかしだと知っていても、夢の影を追う自分がいた




君が残していったいは、劇物だと知っていましたか



  |



top