視界が一面真っ白に染まっている

それほどに吹雪が強くなっていた

これ程早くにこんなことになるとはガイアスでさえ予想出来なかった

それで不安になる事などなかったが、腕の中の存在に急がなければいけない


「…、ごめん。ガイアス」


小さく謝る言葉にミクニを抱いていた腕の力が少し強まる

最早、己の勘のみを頼りに道を進んでいれば、目の前に何かが現れる

目と鼻の先に迫っていたのは、扉だった

ガイアスは扉を押しあけ、中へと入り込む


「此処は…教会、か」


精霊の加護か、運よく辿りつく事が出来たのはザイラの森の教会で間違いなかった


(城は、目前だが…)


外では吹雪の激しさを物語る様に轟音がしていた

ガイアスはミクニに僅かに積もっている雪を払い、二階へと向かう

入った一室には一階と同様に人の姿などなく、其処へ入りこむとガイアスは一つのベッドへとミクニを寝かした


「…やはり、酷くなっているか」


熱に魘されるミクニの額から感じる熱さは、抱きかかえる前よりも増している


「ガイアスの手、…つめたい…」


ミクニの体温もあるだろうが、ガイアスの手が冷たいのはミクニを吹雪から守っていたのが主な原因だった

それがわかっていてミクニは申し訳なさそうにする

こんな時でも、そんな目をするミクニに何も言わず、簡単な精霊術をもって暖炉に炎を灯した

すぐに薪がパチパチと音を立てて、炎を大きくしていった

炎の様子を確認し、ガイアスはベッドの方に戻ろうとする

ちょうどミクニが起き上がろうとしており、ふらつくその身体を支える


「このままでは熱が悪化する」


ローブだけ脱がし、彼女が身に纏う衣服の状態を確かめる

予想していた通り、ミクニの服は雪崩の際に入り込んだ雪によって濡れていた


「…自分で脱げるか?」


ミクニもガイアスが言いたい事が分かり、一つ頷く

その頷きにガイアスは立ち上がり、一度部屋を出ていった

扉の前で自身のローブを脱ぎ、一つ息を付く

このままもう一つの部屋へと向かおうとしたが、ミクニのことが気がかりだった


「……ガイアス…其処にいる?」

「ああ」


弱々しい声が背中にあたる扉の向こうから聞こえる

返事を返せばミクニは静かになった

少し待つと、またその声で言葉を紡いだ


「いいよ…入って」


ミクニがガイアスを招いた

部屋が此処しかないと思っているのだろう

ガイアスはミクニの状態を確かめるためにも閉めた扉を押す


「…ガイアス、城に帰れないね…」

「構わん」

「…服、乾かした方がいいよ」


毛布にくるまり、うつらうつらな視線が心配していた


「…俺の心配はいい。お前は寝ていろ」

「でも、ガイアスが…」


起きたままのミクニを横にさせる

その時、白い肌が見えたがガイアスは知らないふりをした


「私、目を閉じておくから…上だけでも脱いで暖にあたった方が―――」


(自分のことだけを心配していればいいものを)


未だにガイアスの身を案じるミクニに呆れにも似た思いを抱くと、己の衣服に手を掛けた

突然の行動にミクニは小さな悲鳴をあげる


「っ―――脱ぐなら、脱ぐって…」

「見られて困るようなものではない」

「そうだとしても…」


焔に照らされるガイアスの肉体にミクニは顔を逸らす


「何を照れている?」

「照れて、ない…」


いつもよりも力のない声にガイアスは近づく

ミクニは何も言う事はなく、その乱れた息遣いを響かせていた


「…寒いのか?」

「…ぅん…」


頬は未だに熱かったが、その身体が微かに震えている事に気づく

他のベッドからもう一枚毛布を被せる

ミクニはぎゅっと毛布を抱きしめるが、その震えは簡単には治まらなかった


「…このような場合、人肌がいいと聞くが」

「…それって、…」


弱りながらも、その瞳でガイアスを捉えるミクニにガイアスの指が伸びる



「俺では嫌か?…ミクニ」



その視線を逸らせないように頬に手を当てていれば、ミクニは困惑で言葉を中々紡げずにいた

少しの沈黙が続くが、ミクニの声が出る


「……ガイアスなら、私は…、―――」





弱みにつけ込み、れた感情が嗤う



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