雪を踏みしめる感触が伝わる

偶に深い雪道に入っては、足を取られそうになる

ミクニは今、ザイラの森を超えた雪山にいた

その手には弓を持ち、視線は狩人のように獲物を捜していた


「言っておくけど…ガイアスは手出しをしないでよね」

「このような事をしなくともよかろう」

「ガイアスはいいかもしれないけど、世話になりっぱなしは嫌なの」


一緒に付いてきたガイアスに今一度忠告した後、ミクニは再び周囲の気配へと意識を置いた

数日後、シャン・ドゥにてあるイベントがあり、自身が狩った魔物を競う

狩った後でも言いし、捉えた状態でもいいらしい

けれど、捉えたままの方が高得点を貰える

何故、ミクニがそんなものに参加するかと言えば、優勝して貰える賞金であった

賞金を手にできれば、ガイアス達に世話になっている分を少なからず返せるから

そんな理由だった


「…いた…」


他の魔物に比べると大きな魔物が離れた先で動いている

射程距離まで近づくと、ミクニは鉄の矢を番える

矢尻が獲物に合わされようとした

だが、弓矢の鋭い音が響く前に、雄々しい音が聞こえる

ミクニが狙っていた獲物は、違う魔物―――異常発達した魔物によって命を奪われていた

血をぶちまける怪物の視線が止まる


「っ――――(気づいてる)」


隣でガイアスが刀を引き抜く音を出した

それを阻止する猶予なんてない、緊迫した空気

その空気を裂くようにミクニの指が弦を放す

身体の中心を狙った矢は一直線に相手へと飛んでいったが、魔物は前足で受け止める

怒りの咆哮が山に木霊した

空気が震える声が、体まで伝わってくる


「逃げるぞ、ミクニ!」


魔物の雄叫びの意味を悟ったガイアスが弓を持ったミクニの腕を引いた

いきなり何かと思ったが、次第に大きくなってくる音にミクニも足を走らせる

押し崩された雪の層が、間もなく二人を襲った




雪が盛り上がる

力任せに身体の上に乗っている雪を押しのけた


「平気か?」


顔を出せば、平然としたガイアスが手を伸ばし、ミクニの身体を起こす

雪崩に襲われなかったのか、全く動じていない彼にミクニは返事をする


「何とかね…ガイアスは?」

「あれくらい、何ともない」


(そうですよね)


一応聞いてみれば、当然とばかりの返事

ミクニは自身と同じように雪に埋もれた弓をほり出すと、闘う意志を失くしたように身に付けていた飾りにしまう


「諦めるのか?」

「また明日にする。それに雪崩で、万が一ガイアスの体調に何かあったら、ウィンガルに小言を言われるからね」

「俺の身体は、柔ではない」

「万が一だよ!さぁ、帰ろう。ただでさえ、こっそり出てきたんだから」


抜けだしたのがばれた時の覚悟はあるが、ガイアスが雪崩に襲われたと知れて更に怒られるのは勘弁だった


(まさかガイアスに見つかるとは思わなかったからね)


太陽が昇る前に抜けだした時に、ガイアスに見つかった事を今一度後悔しつつ、ミクニはガイアスと共に帰路についた





カン・バルクまで残り半分になった頃だった


「吹雪が酷くなってきているようだな。少し急ぐぞ」

「うん」


この地の事をミクニよりも遥かに理解しているガイアスが、空が怪しくなっていることで足を速めようとした

その問いかけにミクニは伏せていた顔を上げてガイアスへと頷くと顔をまた伏せる

すぐに速度を速めようとするミクニだったが、ガイアスはもう一度顔を上げさせた


「何故、言わなかった」

「何を…?」


苦笑いをつくるミクニにガイアスの顔が怪訝になりながら、その額に触れた

その行動に小さく声を漏らしたミクニから伝う体温に、更にガイアスは怪訝となる


「辛いなら言え」

「これくらい、平気だよ」

「…俺では頼れないのか?」

「そうじゃない。本当に、これくらいは大丈夫」


熱が出てきていたが、歩けない程じゃなかった

意識だってしっかりしていた

本当に大丈夫だからこその言葉で、ガイアスに頼れないわけではなかった

けれど、ガイアスには無茶しているように見えるのか、彼の怪訝さは変わらず、ミクニはどう言おうか考えた


「急ごう。このままじゃ、吹雪で帰れなく―――」


身体が浮き上がり、視点が変わった


「…ガイアス…っ」

「大人しくしていろ」


有無を言わさない声と視線に神経が封じられる

その間にもミクニの体力を奪うように、吹雪の強さが増していった



熱の苦しみがましくも



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