「―――つまり、ミクニはシャン・ドゥへ行きたいのか」

「うん。一目でいいから見たいの。もちろん、ちゃんと帰ってくるから!」


二人の話を纏めるガイアスをミクニは見上げる

ウィンガルと同様にガイアスも許してくれなければ諦めるつもりでガイアスから出てくる言葉を待つ


(やっぱり、駄目なんだろうか)


「…一目でいいのか?」

「陛下―――っ!?」

「っうん!」

「ならば、俺が連れて行こう」


ミクニは瞳を丸くする

隣では、ウィンガルも僅かに驚きの色を見せていた


「いいの?ガイアスって忙しいんじゃないの?」

「陛下が態々連れていかなくとも…」

「お前が連れて行かないのならば仕方あるまい。今は他の四象刃もいないのだ」


(こういう事になると知っていれば、あんなことを言わなかったというものを…)





ミクニを連れて行ってくれると言ったガイアスに付いて行けば、城の外へと出た

冷たい風に身震いし、少し歩むと檻が見える

ガイアスの背後から覗きこめば、翼を持った生き物が蠢いていた


(…魔物?)


その姿を黙って見ていれば、一人の兵士が檻からその魔物を連れてくる

見た目の大きさにしては大人しく、逆らう事もなくガイアスとミクニの前へとやってきた

訳がわからないままでいれば、ガイアスが手綱を握る


「ガイアス…これって魔物、だよね?」

「ああ。ワイバーンだ」

「これに乗るの?」

「何を畏れている。行くのだろう」


長い首が下げられ、ガイアスがワイバーンの背へと騎乗した

そして、呆気に囚われていたミクニに向けて手を差し出す

その意味が分かりミクニが手を取れば、軽々と引っ張り上げられ前へと座らされた


「陛下、どうかお気を付けて」

「留守を頼むぞ、ウィンガル」

「精々、陛下に迷惑を掛けないようにしろ」


涼しげなウィンガルの視線がガイアスからミクニへと流れる

ワイバーンの上でたじろいでいたミクニは「わかっているよ」と一つ頷く


「では行くぞ」

「え、……―――っ!」


心構えをする前に背中でガイアスが合図をする

ミクニが振り向こうとすると、ワイバーンの身体が動きだした

浮遊感に襲われ、ミクニは咄嗟にワイバーンの首にしがみ付く


「…わぁ…飛んでる」


周りの景色が一瞬で変わっており、気づけばミクニは空に居た

恐る恐る下に視線をやればカン・バルクの街並み


「いつまでそうしている」

「へ?だって、落ちるかもしれないでしょ」

「自身で飛べると言うのに、怖いのか?」

「自分で飛ぶのとじゃ、違うんだよ!それに、この姿じゃ飛べないし…」


地に付いていない足が不安定でスウスウする

今ワイバーンから離れれば、かなり不安定になるだろう


「…だが、そのままではワイバーンの首が絞まる。放してやれ」


ガイアスに言われ、ミクニは少しずつワイバーンから身体を離す

次第に背筋を伸ばしていこうとするが、震える腕は未だに放す事が出来ずにいた

その様子にガイアスは気づかれないようにため息を吐くと、見兼ねて動いた


「っ、ガイアス!?」

「これならば、いいであろう」


重力のように後ろへと引かれる

背中に何かがあたり、腰に力が働いていた

見上げれば、至近距離にガイアスの顔があり、ミクニの思考が一瞬固まり、ガイアスに抱き寄せられている事を理解する


「そう、だけど…」

「何だ?まだ不安だと言うのか」


しっかりとしたガイアスの腕により、安定となる身体

不安は薄れていたが、耳元に届いてくるガイアスの心音に自分の音が大きくなっていく

心臓の力が強くなり身体に熱が生まれるのを感じて、ミクニはその事実を無視するように顔を伏せた


「、大丈夫…それより、ガイアスは片手で平気なの?ワイバーンを操れるの?」

「何ら問題はない」


狭めた視界でガイアスが片手で手綱を掴んでいる事を今更ながら知る

ガイアスは平然と言い放ち、ワイバーンは風を切って空を飛んでいく


「それなら、いいけど」


それだけを確認して口を閉ざす

雪の向こうに目的の地を見つけるために、空から見える景色に集中しようとした



心音のれは、なかなか静まらない


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