ぎゅぅ〜〜ぅうう


よく響いた効果音に全てが沈黙した

見下ろしてくるガイアスにミクニは精霊に対する嬉しさなど忘れて、顔を赤くする

正直すぎる自分のお腹を押さえ、瞳を泳がせる


「こ、これは、その…!えっと、」

「…食べ物を寄こせと言っているのか?」

「ぁう…」


(はい、そうです)


コクン、とミクニは頷く

怪我人だったため粥は出されたが、それだけだった

けれど、ミクニの腹はそれだけで満足しておらず、本当はもっと欲しかったが言いだせずにいた

その結果がこれだ

恥ずかしさでしょぼくれるミクニだったが、ガイアスが動いたのに気づく


「ついて来い。すぐに食事を用意させる」

「何だか、ごめんなさい」


(催促したみたいで)




ガイアスに続いて一室に入り、大人しく席に座る


「減っているならば、すぐに言えばよかろう」

「だって、此処が何処かよくわかんなかったし、保護の話でそんな空気じゃなかったし。何より、いきなり“ご飯下さい”なんて言えないよ」

「ほぅ…にしては、ずいぶんと正直な腹だったな」

「うっ…ガイアスって、意外に意地悪なんだね」


唇を尖らすが、意外な彼の一面を見れてか僅かに口元を緩める


(でも、嬉しいや)


相変わらずの表情のガイアスを見ていれば、すぐに料理が運ばれて来た

王が住まうだけあり、いつでも料理を出せるようにしているのか、ずいぶん早かった


「ガイアスは、食べないの?」

「俺は既に食した」

「そっか」


ガイアスの元に料理が運ばれてない事に気づき、彼を待つべきか確認した

けれどガイアスは食べないようで、ミクニは用意された箸を手にする


(美味しい)


久しぶりの食事にお腹はもちろん、身体が満たされていく

料理を口にする度、ミクニが嬉しそうにしていれば、ガイアスが声を掛けた


「人間と同じ物を口にするのだな」

「もしかして…生肉でも食うと思った?」

「食べるのか?」

「食べないよ!」


完全に魔物と同じ性質だと勘違いされていると思い、ミクニは顔を顰めた

始祖の隷長はもちろん、ミクニの事をあまり理解していないのだから仕方ないのかもしれない


「魔物みたいな姿をとるけど、人間と変わらないからね。人間から見て、変わった物なんて食べない」

「そうか」

「でも…」


箸を止め、ガイアスを見やる

何かあるのかと、ガイアスはミクニの言葉を待つ


「…ガイアス達って、何でマナが濃いの?」

「何のことだ?」


余りにも食事とは関係のない話に、ガイアスが眉を寄せる


「何のことと言われても…人間にしてはマナが濃いというか、出ているというか」


ミクニとて自分でどう言えばいいのかわからなかった

けれど、先程触れられた時も、助けられた時も、ガイアスからマナを感じた

ミクニの世界では、生命力もマナの一種だと言われているが、それにしては濃い


「人間には霊力野があり、そこからマナを出す」

「マナを、出す?」


(何それ?マナを出すクレーネみたいなもの?)


「俺たちはマナを精霊に与え、精霊は力を貸す。お前の世界では違うようだな」

「う、うん」

「それで、何故いきなりマナの話をしてきた?」

「それは、マナを食べるから」

「…何を言っている」


明らかに不審なモノを見るガイアスにミクニは説明を考える


「えっと…ガイアスの世界でも精霊がマナを必要とするんだよね?」

「そうだ」


(やっぱ、精霊は同じみたいだね)


「私も精霊みたいにマナが一種の栄養源みたいなもんだから」

「まるで精霊のようだな」


マナを糧として生きるとすれば、精霊と同じであり、ガイアスはミクニを精霊と称した

その一言にふいを突かれたようにミクニは一瞬驚くが、すぐに笑みへと変える


「そうだね。だから、あの時ガイアスが抱えてくれた時助かった」

「どういうことだ?」

「助けてくれた時、結構傷を負ってたでしょう?その時無意識にガイアスからマナを貰っていたようだから」


今考えれば、瘴気が身体に入っていたにも関わらず、今ここまで楽なのはガイアスからマナを補給して痛みを和らげていたからだろう

そうでなければ大気の僅かなマナでは足りない

ガイアスはミクニの言葉に口を閉ざしたまま何も言わずにいたが、瞳を閉じてから一言言う


「…マナは遠慮せずに貰うようだな」

「うっ…ごめん」


表情を余り変えることなく茶を啜るガイアスにミクニは不安になる


(怒らせただろうか?)


その姿を視界の端に捉えながら、ガイアスは茶を置いた


「身体は、だいぶいいのか?」

「――――!うん!ガイアスのおかげでね!」


不安から一転して、明るくなるミクニの顔に釣られるように、少しだけガイアスの表情が変わった




陽だまりの心地よさがみ込んできた感覚を、忘れる術はなく


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