「ガイアス」


城の明かりをじっと見つめる姿

ガイアスの元で保護されることを受け入れたミクニであった

他の者のように敬いながら自身を呼ぶ事もせず、何ら躊躇せずに近づいてくる


「あっ…嫌、かな?」

「何がだ?」

「いや、こう…呼び捨てとか、敬語じゃないのとか」


ガイアスが嫌な顔をしていると思いミクニは気まずげに言う


「別に俺は気にせん」

「そっかぁ、良かった。長い事、敬語を意識する場なんてなかったから…まぁ、元々敬語が苦手なのもあるんだけど」


嫌な顔をしているつもりなどガイアスにはなかったが、相手にそのような印象を与えているとわかり否定をする

それにミクニはほっと息をつく

そんな些細な心配をしていたミクニに時間がなくて聞けなかった事を聞いた


「ミクニの世界に住む者は、全てミクニのように化けるのか?」

「ああ、そういえば…謁見の時も聞いてきたね。ちょっと驚いて、その答えを言うの忘れてたけど」


元々、ミクニから真意を口にさせるために鎌を掛けるための問いだった

だが、その事柄はガイアスにとって重要とも言え、聞いておかねばならなかった

もしも、ミクニのようにそのような者がこの世界に来ており、敵国の手にあれば、ガイアスの国の危機になる可能性が大いにあったからだ

だが、ガイアスが考えることを打ち消すようにミクニは首を横に振る


「私以外、存在しないよ。皆、ガイアスのようにちゃんとした人間の姿をしているし、君らと変わらないと思うよ」

「お前だけか?」

「うん。だから、こうやって人と話すなんて久しぶりなの」


ガイアスが求めた答えを口にするミクニは、少しだけ寂しそうに言ったが、それを打ち消す笑みを浮かべる


(何故…そんなに嬉しそうにする)


まるで、この些細な会話を心から喜んでいるようにガイアスの目には映った


「人間は、お前を畏れているのか?」


人と話す事が少ないのは、ミクニの姿を畏れているからかとガイアスは考えた

ミクニは考える素振りを見せ、答えをつくる


「どうだろ?皆、私を敬ってくれていたけど、普通に接することはなかった。少なくとも、昔に比べると遠ざかっていったから…畏れていたのかもね」


ミクニの言葉からミクニという存在は、人間から魔物としてではなく、何か特別な存在とされていたことを知る

それは崇められるような―――譬えるなら、聖獣

確かにあの姿であれば、讃えられていても可笑しくはなく、魔物よりもかなりしっくりくるものだった


「言っておくけど、私は大した存在じゃないよ。言い伝えが、間違って伝えられているだけだから」

「言い伝えになる程であれば、何らかの特別な存在なのは確かであろう」

「うーん…あるとすれば、彼らと精霊を見守っていくことかな」


(精霊―――)


「そういえば、この世界にも精霊がいるんだね。ちょっと驚いた」


城を照らす明かりに指を伸ばすミクニの動作をガイアスは黙って見ていた

其処に何かがいるように指を差し出すミクニは、精霊術で灯る明かりに向かって瞳を和らげている


「何故、精霊がいることを知っている?」

「えっ?だって…」


不思議そうに首を傾げるミクニだったが、理解したように声を一度抑える


「…そっか」

「どういうことだ?」


1人で納得するミクニにガイアスは手を伸ばし、ミクニの意識を自身に向かせた

ガイアスの行動にミクニは瞳を瞬かせる


「お前には、精霊術は愚か、精霊の事も教えていないはず」


少なくともガイアスが知る範囲ではミクニが知ることは、この世界の名と自身らの名くらいだった

保護されると決まったばかりのミクニに誰かが精霊のことを教えているとは思えなかった


「それは、私が精霊を見ることが出来るから」

「何だと?」

「でも君らには、普通は見えないんだよね?」


特別な方法で実体化させない限り、精霊を見ることは難しい

けれどミクニは、当然のように見ることが出来ると言った


「私の世界でも人には普通見えないんだけど…そんな所も同じなんて、不思議。精霊は共通なのかな」


己の故郷と同じ存在がいることにミクニの空気は和らぎを増す




聖なる存在にい、共鳴してゆく



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