あなたの髪を撫でるたびにあなたに恋をする
静かに瞼を閉じていた
それでも意識は落とさずにいて、眠りに揺られるのをやめていた
その中で扉が開く音がして、忍んだ足音が聞こえてくる
(こんな時間に誰だろうか)
(私を襲いに来た人とかだったりして)
(それならご苦労な事だなぁ)
ぼんやりとそんなことを考えてはいたが、相手から殺気を感じられないのでそういう類でないのはわかった
なら誰かと思い、とある顔が頭に過ぎると同時に唇に何かが触れてくる
その行為と鼻に届いた匂いに釣られて瞼を持ち上げれば、暗闇に人影
「…こんな時間に何の用?ガイアス」
「顔を見に来た」
何の明かりがなくてもある程度の姿はわかった
何よりも柘榴のような綺麗な目を持つ人で結びつくのは、先程頭に過ぎた人物―――ガイアスで間違いなかった
「でも、いきなりキスする?」
「したかったのだから仕方あるまい」
「そう…」
口に触れてきたのは指ではなく、吐息が掛ってきたためガイアスの唇だと判断してみれば案の定そうだった
「…何故だかわかるか?」
その問いには、口付けも含めてこうやって部屋にまで来たことの意味を言っているのだろう
一心に向けられる瞳から視線を少しも逸らすことなく、ミクニはゆっくりと腕を持ち上げてガイアスに触れる
「今日…会っていないから?」
「…そうだ」
一心に自身を見つめてくれる瞳の奥を探っていたミクニだったが、上半身を起こすと勢いよくガイアスの体を引っ張った
「一緒に寝よう」
それだけでガイアスの体が倒れてくれないので、布団を纏ってミクニがガイアスの上に被さる様に押し倒す
「ずいぶんと積極的だな」
「だって、ガイアスの目が寂しそうだったから」
そう言ったミクニはガイアスの頬へと触れながら続ける
「…寂しかった?」
「…このようにして会いに来たのだから、そうなのだろうな」
その答えにミクニは瞳を細め、顔に掛る髪を払うように髪を撫でた
「ミクニ…」
「何?」
「…お前くらいだろうな。このような事をしてくるのは」
「嫌なの?」
王である前にガイアスは大人だ
普通、このようにされることなどないだろう
抵抗があるならばやめようと思い、ガイアスの髪を撫でていた動きをやめ、離そうとする
だが、その手を戻させないようにガイアスの掌が重なってきた
「嫌とは言っていない。それに、ミクニには触れていてほしい」
そう言ってくるガイアスの表情は和らいでいて、ミクニは再び彼の髪を梳く
それだけでガイアスがまるで幸せそうに瞳を細め、ミクニの心が暖かさを増していった
「あのね、ガイアス…」
「どうした?」
幸せが満ちていく空間でミクニは微笑みながら口を開く
「…私も寂しかった」
自分もガイアスと同じように会いたかった、と言えば、ガイアスの手が伸び、頭を優しく撫でられる
その時の感覚はまた違った幸せであり、ガイアスもこうだったのかな、と思いながら、今の幸せを表現するようにミクニはガイアスへと顔を寄せた
あなたの髪を撫でるたびにあなたに恋をする
素直に眠ることができなかったはずなのに、君に触れられると全てが安らいでいく
―――***
NERURATORATE「透明な愛情」より
執務が忙しく主人公に会えなくて夜中に会いに来たガイアス様
寂しかったガイアス様を癒そうとする主人公
でも本当は、主人公も寂しくて起きていた
甘えたり、甘えさせたりする関係になればいいなぁ
←
top