それがまるで呪文のように、




誰かが頬笑みを向け、彼に触れてくる

穏やかな温もりが伝い、彼を包み込む

鮮明に思えた景色だったが、それはすぐに彼の意識から砕けた


「……、なんだ…」


無意識に呟いた言葉さえ理解できない

自分が何を想っていたのかわからずに、彼―――ガイアスは息を吐く

そういう事が最近、多かったように思う

思うのは、それさえわからないからだ

何故だかこの感覚をすぐに忘れてしまい、再び感じる度に「ああ、まただ」と思うのだ

そんな空虚にも似た感覚を抱いていると、声が掛る


「ガイアス、どうしたの?」


視界にミクニの顔が飛び込んでくる

何故彼女が隣にいるのかを想い出そうとした


「疲れてるんじゃない?」


(ああ、そうだ。俺がミクニを呼びとめて、連れて来たのだ)


「何か甘い物を持ってくるね」


ガイアスが返事をしてこないのを不思議に想い、ミクニが立ちあがろうとする

傍から離れようとした彼女の動きを捉えた瞬間、ガイアスの神経が反応を示した


「っ―――!…ガイアス?」


後ろに引かれたミクニがガイアスの方へと倒れ込む

その身体をガイアスは抱きとめると、腕の中に捉えた


「…此処にいろ」

「お菓子を貰ってきたら、戻って、」

「いらん」

「え?でも…」

「お前が此処にいればいい」


ミクニの意志も構わずにガイアスは腕の力を強め、その存在を確かめた

いつも通り、けれどいつもと違うガイアスにミクニは動きをやめて、大人しくした

それを確認すると、ガイアスはより深くミクニが存在する証拠を求めるようにその首に顔を埋める


「ミクニ…」


仄かに鼻を擽るミクニの匂いに刺激されて彼女を呼ぶ


「何?ガイアス」


穏やかな声で応えられるが、次の言葉を発せればどうなるだろうか?

ガイアスは少しだけ沈黙を保ってから、ミクニの耳元で囁いた


「―――…ずっと俺の傍にいろ…」


たったその一言を告げる

僅かにミクニの神経が震えた

だがそれだけであり、ミクニがガイアスに向けて何らかの言葉を返すことはなかったがそれで構わなかった

そのままガイアスはミクニの温もりを感じるように瞳を伏せた



それがまるで呪文のように、



知らない空虚を埋め、お前の中で枷になればいい




―――***
NERURATORATE「私を縛るもの、」より

ガイアスの気持ちを知らされてからそれほど経っていない話
ガイアスはわからない空虚もあり、主人公が傍を離れることを拒んだ
どういう意味かは言わなくとも、主人公はその言葉がこの世界から離れるなと言われているのがわかり、返事を返せなかった
けど、それは拒否の言葉を出していないのも事実であり、ガイアスは少しずつ自身の言葉が主人公の中に残っているのを感じている
甘えるはずが切ないもんになったよ…





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