お手上げです、きみには敵いません。
甘い香りを纏って行けば、執務をしていたガイアスが顔をあげる
ミクニを見た後、彼の視線は少しだけ下へとずれた
それがわかり、目を細めつつガイアスを呼ぶ
「少し、休憩しよう」
「ああ」
ミクニの手招きにガイアスは誘われるまま執務の机から離れ、ミクニの隣に腰掛けてくる
「おはぎか…」
「もしかして、嫌い?」
「いや、好物だ」
「だよね」
持ってきたおはぎに視線を奪われているガイアスが、おはぎを嫌いであるはずがないのをミクニは予想していた
(だって、甘党なんだから)
見た目とは裏腹に甘党であるガイアスが、おはぎも好物だと考えることなど簡単な事であり、ミクニはおはぎをガイアスへと差し出す
「はい。どうぞ」
「これもミクニが作ったのか?」
「うん、そうだよ」
受け取ったおはぎをじっと眺めた後、ガイアスは一つ手に取り、口へと運ぶ
「うむ…美味いな」
「よかった」
目尻を緩めながらガイアスが一つ目のおはぎを食していく
甘いお菓子を食べる時は、いつもこうだ
王の顔が少しだけ薄れてくれる
凛々しい表情も良いが、穏やか表情はもっと良い
「…いつも、その方がいいのに」
「何がだ?」
「何でもないよ」
「そうか」
ぽつり、と零れた言葉の意味を言わずに、ガイアスにお茶を淹れてあげた
それを受け取り、甘くなった口をガイアスは一度潤し、再びおはぎへと手を伸ばす
(本当、好きなんだから)
お菓子に心奪われ、言葉数が少なくなったガイアスを静かに眺めていたミクニだったが、ふとあるモノが目に入った
「ふふっ…ガイアス、付いてるよ」
「笑うでない」
「だって…可愛いから」
食していたおはぎの餡子を付けたガイアスの表情に、小さく笑い声を漏らしてしまう
それを指摘され、眉間に力を入れるガイアスの目元が少しだけ赤らんでいるように見える
(こういうのも見たいから、作りたくなるんだよね)
「…何処だ?」
「そこじゃなくて…こっちだよ」
思わず笑みを深くしながら、苦戦しているガイアスの顔をこっちに向けて、代りに指を伸ばした
そのままガイアスの口元に付いていた餡を指先で取り、自分の口の中に含んで笑顔で言う
「うん、甘いね」
そのような行為を目の前でやられたことでガイアスの顔が少しだけ変わった
してやったり、と意地悪く思っていたミクニだったが、それは一瞬で消えさる
「んっ――――!」
視界が変わり、気づけば唇が塞がれてしまっていた
同時に仄かな甘さとガイアスの味が混じって広がっていく
「お前の方が甘いな、ミクニ」
上手くいったことに満足した相手に反して、恥ずかしくなる顔を紛らわす様に口を手で覆う
「っ…もう…!」
お手上げです、きみには敵いません。
可愛いと思って、油断するんじゃなかった
そう後悔するも、隠した口元は緩んでしまっていた
―――***
群青三メートル手前「彩日十題」より
我がサイトのガイアス様は甘党設定
甘い物には目がなく、それを知ってから主人公はお菓子を作ってあげている
ユーリも甘党だったからお菓子は全般的に得意な主人公
そんなに表情には出ないけど、お菓子を夢中で頬張る陛下
それが可愛いと思っている主人公ですが、餡子を付けている姿はより一層可愛いと思ってしまった
甘さ薄いかも(H23.10.17)
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