ん?冗談なわけないでしょう?




しとしとと雨が降るケーブ・モックから凶暴化した魔物達がダングレストへと直進していく

彼らを楽にしてあげるためにも急がねばいけない


「…これもバルボスの仕業なのかな…」


紅の絆傭兵団の首領が怪しい動きをしていることもあり、ダングレストに向かっていたミクニだったが、街に踏み込む直前で結界が消えるという始末

餌を見つけたように凶暴化した魔物の群れと、届いてきたエアルの乱れ

結界の件も気にはなったが、まずはエアルを調節すべきだとミクニは1人で大森林の奥へと来た

濃度の高いエアルが光のように周囲に満ちている

そのエアルに怪訝となるわけでもなく光の中へと入れば、エアルの源泉が其処にあった

全ての源である泉の上を意識して歩けば、波紋が生まれるだけでミクニの身体が沈む事はなく、そのまま異常なエアルを体内に取り込んでいく


「見て。これのせいよ……」

「ちょ、みんな!?」


背後で悲鳴が上がり、何事か、と振り向けば、案の定人がいる

エアルの光でよく視えないが、1人ではなく、その傍には魔物の姿

此処に何しに来たのだろうか?

魔物退治か、もの好きか、命知らずか、それとも迷子か


(助けた方がよさそうだね)


腕に覚えがあるのか、彼らは魔物を退けた

けれどすぐに新たな魔物が湧き、彼らを取り囲む

エアルを完全に正常化する時間はなさそうだと判断してミクニが弓を手に取ろうとした時、新たな気配が生まれる


「…デューク」


薄れたエアルにより見えた視界に細身の男が降りてきたのを捉えた

彼は己が持つ剣を持って魔物を光の粒子に還すと、まっすぐにこちらへと向かってきた


「やはり来ていたか」


親友であるデュークはエアルクレーネに立つミクニを確認すると外へと向かいだす


「…此処は落ち着いた。出るぞ」


ダングレストに向かうことを彼は知っているはずだが、逆に彼はどうして此処へ来たのだろうか?

バルボスの行動のためとも考えられるが、本当の意味は後でわかった

宙の戒典の余波により、完全に落ち着きを寄り戻したエアルクレーネからデュークの後に続くと、複数の視線が突き刺さる

この現象を不思議がっているのだろう

そう思いつつデュークの背から顔を出して、彼らを見渡そうとしたが、思考が停止した


「「………」」


(おい、待て)


エアルによる幻覚だろうか、とゴシゴシと目を擦って再確認する

黒い長髪に整った顔立ち

胸元を覗かせる服を着た長身の青年


「…ユーリ」

「姉ちゃん…!」


お互い止まっていたが、ミクニの声で彼もようやく口を開く

ユーリの言葉に周りが驚いたように目を見開いている

ただ1人―――デュークだけは一度ミクニを確認すると、察したのか立ち去ろうとした


「!ちょっと待って!」


少女がデュークを捕まえ、宙の戒典を覗きこみエアルの暴走に関することを聞いていた

デュークは無表情で「それはひずみ。当然の現象だ」と答えると、新たに近づいてきた少女を赤い瞳で捉える


「あ、あの、危ないところをありがとうございました」


(あの子…そう、それでデュークは此処に…)


桃色の髪を持つ彼女から感じる波動からデュークの視線の意図を知る

エアルクレーネには近づくなと注意すると、デュークは最後にミクニに目配せして背を向けた

彼が言いたい事がわかり、ミクニは黙って見送る


(さて…)


「…それであの人…」

「てか、さっきの奴と知り合い?」

「ねぇ、ユーリ…」


デュークが残した言葉を置き、ミクニのことでコソコソと話す会話にミクニは苦笑いを浮かべつつ振り返る


「ワウ!」

「ラピード!」


ユーリの足元でキセルを加えた犬―――ラピードに気づけば、彼が元気よく返事をした


「で、どうして此処に?ユーリ」


警戒する事もなく近づいてきたラピードの頭を撫でながらミクニはユーリに意識を向ける


「ちょっとした成り行きでな」

「成り行き?」

「簡単に言うと、下町の水道魔導器の魔核が盗まれたんだわ」


罰が悪そうに頬を掻くユーリに対してミクニは目を白黒させる

“下町”という事で大方の事情を察した


「…まぁ、詳しい事は後で話すわ」

「そうだね。ユーリの周りにいる人達を待たせる訳にもいかないし…というか、何でレイヴンがいるの?」

「おっさんの事知ってんのかよ?」

「ミクニちゃ〜ん、久しぶり〜!」


ユーリがミクニの視線の先にいるレイヴンを見れば、二人の視線を受けて―――正確にはミクニの視線で明るく声を出す30代


「まぁね。ちょっとした縁もあって」

「そうそう。俺様とミクニちゃんは赤い糸でむs「おっさん、黙れ」…」

「で、そっちの3人の子たちは?」

「ああ。こっちがエステルに、リタとカロルだ」


うざったそうな声でレイヴンを黙らせると、ユーリはじっと見つめてくる3人を紹介する


「初めましてエステリーゼと申します。エステルって呼んで下さい」

「僕はカロルだよ!」

「…リタよ」

「それでミクニちゃんと青年の関係って何?何か、青年が信じられないこと言っていたと思うんだけど…」

「レイヴンの言うとおりだよ!だって、ユーリこの人のこと…」

「お姉さんって言ってました」

「…こいつと姉弟なんて、冗談にしては笑えないわよ」

「悪かったな。姉弟で…」


信じられない様子の彼らの発言に、ミクニはユーリの隣に並ぶと言った



ん?冗談なわけないでしょう?



「ユーリの姉のミクニです。うちの弟がお世話になってます」


愛想の良い微笑みで再確認させる

その直後、それぞれから面白い反応が返って来て、ミクニは楽しそうに笑った


(てか、似てなくて当然だっつーの)

(すぐに教えたら面白くないでしょ?ユーリ)

(…姉ちゃんの悪い癖が始まったな…なぁ、ラピード)

(ワフ!)




―――***
群青三メートル手前「長文五十音題(弐)」より
ケーブ・モックにて旅に出ていた主人公とユーリが出逢う
二人が姉弟という事柄に信じられないメンバー
此処に来る前は、主人公はデュークと共に行動していたのかな?
ユーリは姉を捜索するのも兼ねて帝都を出ていたりする。





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