ぼんやりと、空っぽになった頭で考える。
燦々と太陽の光が下町に降り注ぐ中、ミクニは道を歩いていた
いつも通りに下町は変わりなく、騎士の姿はやはり見当たらない
今日は平穏に終わるだろうか?と思っていると、手を引っ張る力が強くなる
「お店が見えたよ!姉ちゃん」
手を繋いでいたユーリが指を差した方向には、いつものように店が並んでいた
それが見えた事でユーリが駆け寄ろうとする
「ユーリ、走ったら危ないよ」
「平気だよ!」
「元気なのはいいんだけどね」
子供らしい弟の姿に困ったような、でも嬉しそうに微笑みながら、ミクニはユーリが1人で行ってしまわないようにしっかりと手を繋ぐ
そのまま他の人々に紛れてユーリと共に食材を見て回り、顔馴染みになった店から必要な物を買い込み、少しだけ世間話を交えながら食材を受け取った
「姉ちゃん」
「何?」
「俺が持つ!」
袋を受け取った自分に向けて手を伸ばしてくるユーリの姿にミクニは少し考える
「ミクニちゃん、お貸し」
そのやり取りを見ていた店の人の手には小さな袋があり、自身の思案を読み取ってくれたのだと理解したミクニは買い物をしたものを渡す
その中身から少しだけ小さな袋に移してもらい、ミクニはその袋をユーリに渡した
「それじゃ、こっちがユーリの」
「そっちがいい」
「こっちは私が持つから」
「男が重い物を持つものなのに…」
「ユーリがもう少し大きくなったら、重いのを任すから」
「本当に?」
「本当だよ」
恐らくハンクスさんか誰かが、そういう事を教えたのだろう
別に悪いことではないのだが、変なことまで教えてないかミクニは多少不安になる
(まだ6歳児の子に“男”がとか、ね…)
それでも自ら進んで自分の手伝いをしてくれるユーリの姿は可愛くて、いい子に育ってくれていると思う自分は、親馬鹿というよりも姉馬鹿なのだろう
「ユーリ、先に行っちゃ危ないから」
荷物を持てたことで手を繋ぐ事を忘れたユーリが先に行ってしまう
咄嗟にミクニは後を追うが、その時に誰かとぶつかってしまった
それにより赤い林檎が地面に転がる
ミクニが買った物には林檎はなく、恐らく相手のだろう
「ごめんなさい!」
「いや、こっちこそすまない」
すぐに体を屈め、ミクニは足元に落ちた林檎を拾い上げると、そのまま相手を見上げた
仰いだ大人は、全く知らない人だった
歳の頃は20代後半くらいの、純白と黄金の髪を持つずいぶんと綺麗な人だった
相手の群青色の瞳とかち合うと、ミクニは我に返って林檎を差しだす
「あの…これ」
けれど、相手はありえないものを見るように瞳を丸くしていた
林檎に傷が付いたことに怒っているのかと思っていると、相手が唇を動かした
「……テル、カ」
「――――!」
意味が分からないと首を傾げる前にミクニの体が抱きしめられ、拾い上げた林檎を再び落としてしまう
(えっ?何この人?)
突然の事態に頭がすぐさま混乱しだした
(まさか変質者!?)
「こんな所にいたのか…」
こんな人通りの多い所で子供に抱きついてくる男など、単なる変態かと思って突き離そうと思うが、ミクニのその行動は止まった
(…誰かと勘違いしてる?)
余りにも寂しくも愛しそうな声を出す男にミクニはゆっくりと声をかける事にした
「あの…私は、」
「何すんだ!この変態!」
「っ〜〜〜!」
「姉ちゃんから離れろ!」
いきなり男の表情が崩れると、彼はミクニから手を離し蹲った
気づけばユーリが男の足を踏みつけている
「ユーリ!?」
「姉ちゃん、こっち!」
呆気に囚われているミクニの腕をユーリが全力を持って引っ張りだす
二人を知っている人々が二人を匿うように手招きした
背後では男が何かを言っていたが、それはすぐに掻き消されていく
「姉ちゃん、変な事されてない?」
「ああ、うん…何もないよ」
すぐにいつものように笑みを向けるが、ミクニの様子にユーリは眉を顰めて、ぎゅっと手を握る
「ごめん…俺が1人にしたから…」
「ユーリのせいじゃないし、大丈夫だから。それに、」
「大丈夫でも、俺がイヤだ!」
むっとしたユーリの声にミクニは瞳を大きくするが、すぐに瞳を細めた
「心配してくれてありがとう。ユーリ」
それによりユーリの機嫌が少しだけ治り、ミクニは店がある方角を一度振り返った後、ユーリに急かされながら家へと戻りだす
ぼんやりと、空っぽになった頭で考える。
あの人は、私に誰を見たのだろうか?
―――***
NERURATORATE「遠くの人」より
6歳児ユーリと買い物をしていると、変質者に出会った主人公
変質者というか主人公を誰かと勘違いした男は、主人公が大事なあの人です
二人の出会いはこんなんです
でも、いい歳した男が12歳の女の子を抱きしめるって、本当に変態だ
ロリコンだったのかアイツは←
そしてユーリ君はシスコンだけどね!
男が口にした言葉はまた別の機会に
←
top