ぱらぱら、と降る




ザーフィアスの片隅にある墓地で人が集っている

誰もが喪服を纏い、亡くなった人に別れの言葉をかけていく

大人に交じって、その場所にいる小さな少女―――ミクニは手に持つ白い花を見た

穢れのない美しさを持つ花は、静かに眠る人のようだった


(…セリサ…)


本当に眠っているだけのようで、揺さぶったら起きてくれるように見える


(…、セリサ)


起きたらまた、美味しいご飯を作ってくれる

優しい笑顔を浮かべて、撫でてくれる

世界のことを丁寧に教えてくれる


何も知らない小さな子供のように、そう思えたら楽だっただろうか?


寝坊をするミクニをもう起こしてくれる事はない

二度と彼女の手料理を食べる事はない

彼女はもう、動かない

もう、目を開けない

何も、言わない

何も……、――――


幼いながらその事を理解していたミクニは、大人と同じように静かに花を添える


「お休み、セリサ……ありがとう」


(約束、守るからね)


今までの感謝と彼女への気持ちを込めて、一言送り、大地へ還る彼女を見送った

涙を流す大人もいたが、最後までミクニは涙を見せることなく、笑顔を浮かべる


「…無理はよしなさい」

「笑顔でいたいの」

「…ミクニ…」

「最後まで、セリサに心配させたくないから」


気丈であろうとする少女の姿に誰かが「強い子」と言った


(強くない)

(強くないんだよ)


心の内で否定して、セリサの墓標を眺めた

見送りを終えた大人達がこの場所を離れだそうとするが、ミクニは1人佇んでいた

じっと眺めていると赤ん坊の声が脳を覚ます


「…ユーリ…」


ハンクスの奥さんが抱き上げていた赤ん坊を見上げ、ミクニは手を伸ばす


「少しだけ…ユーリと一緒にいてもいい?」

「…ああ。ミクニの好きにするとよい」


小さな身体で自分よりも更に小さな赤ん坊をしっかりと抱く

それを見ると、ハンクス達は先にこの場から離れていった


「…ユーリ」

「だぁ!」

「私、頑張るからね」

「あぅ?」

「セリサ達の分まで、一緒にいるからね」

「きゃはっ!」


自分の母親が亡くなったことも、ミクニの言葉もわからない赤ん坊が照らす様な笑顔を向けてくる


「…君は一緒にいてくれる…?ユーリ、…っ」


その笑みが明る過ぎて、ミクニの視界が霞む



ぱらぱら、と降る。



冷たくて熱いモノが落ちてきても、君は無邪気に笑っていた





―――***

群青三メートル手前「涙珠十題」より

セリサは、ユーリの母親です。(一応、鉱物のセリサイトより)
彼女が亡くなり、ユーリと二人きりになった主人公です
6歳ながらも精神面は結構大人な主人公は、これから下町の人の協力を得てユーリを育てていきます。
主人公はユーリの母親、そして父親に恩があります。






top