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xx日-2


(お父さんとお母さんが死んだ日、私はお兄ちゃんの手をずっと握っていた)

やそがみこうとうがっこう。田舎ではあるが、……田舎だからこそだろうか、制服がとても可愛い。歩いている学生を見る限りでは、月光館学園のように、自由に制服を着こなしてもいいようだ。中途半端な時期での転校に少し不安はあるが、まあ、なんとかなるだろう。周囲の学生に紛れながら趣のある校舎に入り、案外すんなりと職員室まで来ることができた。やったね。

可もなく不可もなくな自己紹介を終えて、そっと席に着く。何ともない場所。何ともない学校。何ともない生徒たち。それなのに、なぜか、胸騒ぎが治まらなかった。

一年間、私は1番の成績を取り続けた。お兄ちゃんの遺品の中からノートを出して、わからないところは風花さんに聞いたりなんかして。友達だってそこそこいる。近所の人も優しくしてくれるし、不満は殆どない。ただ、たまに、夢を見る。お兄ちゃんがずっとずっと遠くで私に背を向けていて、その姿は、綺麗だったり、傷だらけだったりする。私は動かない体でぼうっと立ってその姿を眺めている。「足りないんだ」ぼやけた人のかたちをした何かが私にぽつりと言葉をかけて、目が覚める。何が足りないのか、私には、わからなかった。