P3 | ナノ


xx日


(お兄ちゃんは、優しい人だった)

お兄ちゃんが死んだその日から、天涯孤独となった私を周りの人たちはまるで腫れ物のように扱った。ひそひそと影で哀れまれても、私の心は癒えない。それは4月に高等部へ上がってからも続いた……続いたというよりは、酷くなっていったような気もする。私自身、普段に輪をかけて表情を失っていたので、次第に周りから人がいなくなっていた。そんな状態を見かねたお兄ちゃんの先輩で、同じ寮で、私の保護者に名乗り出た上に、金銭面の援助もすると言ってくださった桐条美鶴さんのご厚意により、何もない田舎の学校へ転校することとなった。

何かあったらすぐに言うように。口々に言ってくれたお兄ちゃんの友人たちは、私を心底心配してくれていた。なぜこんなに良くしてくれるのかと問いかけてみれば、お兄ちゃんの友人たち、の一人である順平さんが、みんなあいつのことが大好きだからかなと答えた。その目は優しく、力強く、しっかりと前を向いていて、眩しい。よかったね。以前、電話でお兄ちゃんが順平さんを心配していたのを思い出して、私の口許は緩んでいた。彼は、大丈夫みたいだよ。

引越し先は、綺麗な新築のアパートだった。2LDKのそこは落ち着いた色合いで、周囲から浮きすぎず馴染みすぎず高級感が溢れていた。既に置いてある家具も部屋同様である。3年間お世話になります。

どうやら暇があるときにはお兄ちゃんの友人たちが遊びに来るらしい。迷惑だったらちゃんと言ってね、と心配そうに言ったゆかりさんに来てくれた方が嬉しいことを伝えれば、信じていないようで、遠慮なんかいらないから、とやけに真面目な顔で言われてしまった。調味料等が既に並んでいるキッチンを見ると、料理が好きらしい風花さんから、今度一緒にご飯作ろうねと言われたことを思い出した。そのとき、たしかコロマルが私の足元で心配そうにクゥーンと鳴いていた。

家具は既にある上もともと私物が少ないためか、部屋の隅に置いてある段ボールは少ない。お兄ちゃんの遺品が入っている軽い段ボールをひょいっと持ち上げて端へよけた。片付けるのは最後にしよう。