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蝉がうるさい季節だ。そんなに鳴いていては、食べてくださいと鳥に言っているようなものである。雀だって蝉を食うんだぞ。事件現場を一昨日見てしまった私は蝉から目をそらした。そういえば先週は蜂に仕留められた蝉を見た。弱肉強食の世界を見せつけられるというのは、女子中学生には耐え難い。とはいえ、どちらも学校の補習の帰りでの出来事だったので、自業自得ともいえる。
「でもさ、蝉だって死ぬ瞬間を見られたくはなかったと思うよ。」
「死んだんだからもう関係ないでしょ。」
「いつだって苦しいのは生きている方?」
「経験者は語る?」
「そんなんじゃないよ。」
そう言って、ヒロトはスプーンで空のコーヒーカップの淵をなぞった。
「何の意味もない行為が様になるんだから、美形って特だよね。」
「誉めてる?」
「あと妬んでる。」
むっとした顔で言って、ぐいっと紅茶を飲んだ。外は大変暑いが、喫茶店の中は私にもヒロトにも少々キツい程冷房が効いていた。エコだとかなんだとか言われているが、どうやらこの喫茶店は無視らしい。
「あー、さむ…。」
「帰ろうか。」
「せっかく出かけたのに?」
「名前の家で映画でも見よう。ホラーとかどう?」
「ん。いいね。いつものよりグロいのがいいな。」
「…苦手じゃなかった?」
「冷房つけてタオルケットにくるまって、びくびくしながら抱きつく彼女って可愛いでしょ。」
「それドラマ?」
「昨日やってた。べったべたの恋愛ドラマ。」
「うん。いいね。」
「じゃあ行こうか。」
夜は星でも見ようよ。ヒロトは穏やかな声を少しだけ弾ませて私に言う。私も少しだけ弾んだ声を笑顔で返して、喫茶店を出た途端に握られた冷たい手を握り返した。外は暑くて、暑すぎるのも寒すぎるのも苦手な私たちには厳しかったけど、それはそれで、いいかな。鳴きつづけていた蝉の声は消えていて、移動したのか食べられてしまったのか、それとも…。まぁ、それは私たちには関係ない世界の話である。
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テーマ「人外ファンタジー」
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