short | ナノ






【名前】
偽/dete.stable ディーテ.ステイブル/ハル/ミン/シロ
本/iness/アイネス

なんかこう、壮絶な人生を送っていた少女が別の子に連れられて逃げ出したけどその子が(多分)死んで、それからリンに会って一緒に暮らしていくみたいな話。下はプロローグみたいな。

【裏切りを愛した女】
 ここにいる皆は王女を憎んでいる。王女がもっと国民たちのことを考えていたのなら、私たちは今ここにはいない。親に売られることも理不尽な暴力を受けることもじわじわと迫りくる死に怯えることもなかった。逃げたくても逃げられない。いやらしい笑みを浮かべて胸や腰をなめるように見る男たちに発達途上の体で色目を使うことがどれ程の苦痛か、王女はきっと知らない。
 きっと、私たちの悲しみも苦しみも微かな喜びも幸せも、何もわからない。
「あなたは私と同じだわ。どこまでいっても敵ばかりと思い込んで逃げ出したがっている。矛盾?知らないわそんなもの。私にとってはどうでもいいことよ。ねえ、一緒に逃げましょ。ここから。裏切るのよ。皆を。きっと私、皆の分まで幸せになるわ。だからあなたにも少しだけわけてあげるの。優しいでしょ?」
 くすんだブロンドの髪をかきあげて、彼女は楽しそうに笑った。腕をひっぱられるままに走って、走って、走って、山奥の小さな小屋に辿り着いた。どうして彼女はこんな場所を知っているのだろう。
「ここね、私があそこに行く前の前の前の前に住んでいた場所。」
 前の前の前の前。そのとき私は何をしていたかな。ごみを漁っていたか、まだ暖かい家にいたときか。わからない。わからないけれど、どのみち今より幸せだった気がする。
「そろそろあなたの名前が知りたいな。あ、私はハル。」
「…。」
「ちょっと、何か言ったらどう?」
「…ない、名前、ない、です。」
「じゃあ私がつけてあげる!うーん、じゃあとりあえず今はミンね。」
「ミン…?」
「どう?可愛いでしょ?」
「可愛い、」
「でしょ!ミン。うん。ぴったり!」
「えへ」
 私は泣いていた。皆をおいて逃げ出した自分が情けなかった。もっと酷いめにあっている子はたくさんいたのに、私だけ逃げ出した。彼女たちの分まで幸せになるわだなんて言っていたハルが羨ましくて仕方ない。私には決してできない考えだ。

 ある日ハルが帰って来なかった。2日待っても帰って来なかった。ハルが行ったはずの洞穴があるあたりに行ってみるもそこにはハルはいなくて、でも飛び散って乾いた血の跡が洞穴の中に広がっていた。 真ん中にはぽつんときらきら光る金のネックレス。裏に掘ってあったのはハルの名前ではなく、私の名前だった。
 ミンがハルなら私はミンじゃない。なら私は何って話になるけれど、ハルがいないなら私が何であっても関係ないよね。だって誰にも呼ばれないもの。
 ねぇハル、私たちは幸せになれない。そうでしょ?皆の分の幸せを集めても、ハルの幸せは続かなかったんだもの。










メモ
【憎まれても生きたい】
【血の川】
 
【春になったら】
【死ぬということ】
【雨はやまない】
【明日は来るのだろうか】
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