short | ナノ






わたし、やさしいひとってにがて。じぶんがすごくちっぽけで、たあいもないものにおもえてくるから。すごくむなしくて、かなしくなっちゃうから。くるくると器用にシャーペンを回して遊びながら日誌を書いていると、ひょっこり、顔を出した吹雪くんが上手だね、なんて言って笑った。「あ、ありがとう」「苗字さん、早く部活に行こうよ!」「あっ!うん、行こう!」そう言って立ち上がると同時に教室の扉が開いて、大人しそうな女の子が顔を出した。同じ委員会の、藍原さんだ。「あ!名前ちゃん、今日、急に委員会の仕事が入っちゃって、名前ちゃんにも手伝ってほしいことがあるん、だけど…あの、これから部活だよね…」「えっと…、吹雪くん、少し、遅れて行くね」「うん、わかった」仕方ないね、と言いながら寂し気に笑みを浮かべた吹雪くん。藍原さんはきゅんときたらしく「なるべく急ぐから!」なんて力強く言って、私の手を握り駆け出した。
結局。藍原さんの頑張りも空しく、委員会の仕事が終わったのは下校時刻ぎりぎり。外はもう真っ暗で、野球やテニスや、サッカー部なんかのボールはもう見えないだろうってくらい。つまり、部活はとっくに終わっている。「ごめんねぇ」「藍原さんが謝ることじゃないよー」「でも、」「それより早く帰らないと!藍原さん可愛いんだから危ないよ!」暗い道で普通顔なんてわからないけどね。とかなんとか思ってることをひた隠しにしながら笑ってみる。「鍵は私が返しておくからさ、先に帰っちゃっててよ」「でもぉ、」「私は家近いし、大丈夫だよ。だから早く帰っちゃって、ね?」「ごめんね…」申し訳なさそうにちらちらと振り返りつつ歩いて行く藍原さんをすっぱり無視して、鍵を閉めて職員室へ返却。空を見ると、きらきらと星が輝いていた。「うっ寒いっ」マフラーと手袋を装着していても、寒いものはやっぱり寒かった。かちかちと歯の根を震わせながら早足で校門を出た。「苗字さん、」「え?」「ぼくだよ」「えっ吹雪くん?部活はもうとっくに…」「待ってたんだ。苗字さんが一人でこの暗い中歩いて帰るのは危ないなぁ、って思ったから」「あ、ありがとう」「ううん、ちょっと、迷惑だったかな」「全然そんなことないよ、一人で帰るのちょっと怖かったし……ありがとう」「よかった」吹雪くんはにっこりと笑って言った。心底、安心したように。わたし、やさしいひとってにがて。じぶんがすごくちっぽけで、たあいもないものにおもえてくるから。すごくむなしくて、かなしくなっちゃうから。でもね、ふぶきくんは、ちょっとすき。

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