short | ナノ






木稲 はるの(きいな はるの)
帝国学園生徒。軽くみつあみをしている。毛先にウェーブがかかっていて、それがあまり好きじゃない。運動が苦手。

宇目 ゆみか(うめ ゆみか)
雷門中生徒。長い髪をサイドテールにしている。自分が大好きで、ちやほやされるのが好き。勉強も運動もそつなくこなす。




「わたしはこうかいなんてしない。」ぎゅっとスカートの裾を握って、まっすぐまどかを見据えて言い放った。私の足元でばらばらに散った×××の花に嘲笑されているような気がして唇を噛み締めた。もうそこには、何もないというのに。

廊下は走らないでくださいという看護士さんの声なんか全然耳に入らない。ただあまり速くない自分の足を必死に動かして、辺見から聞いた病室へと急ぐ。「佐久間っ!また、怪我したって、聞い、て…」虚ろな、けれどどこかすっきりしたような笑顔で私を迎えた佐久間はいつかのような松葉杖なんかじゃなく、車椅子に座って至極ゆっくりと、腕を私の方へと伸ばす。「ベッドに寝かせてくれないか。一人じゃできないんだ。」「う、ん。」辺見が、もう佐久間はサッカーができる体では無くなったのだと言っていた。これから一生誰かの助け無しでは生きていけないのだ、とも。「佐久間、あの、」「鬼道には言わないでくれ」「…、」「頼む」「…うん」突き付けられた現実に、佐久間は何を思ったのだろう。横たわる佐久間の隣で、例えようのない何かに揺り動かされた涙腺からはまるで決壊したかのように涙が止まらない。ぎこちなく私の頭を撫でる手の温もりが嬉しくて、寂しかった。

「僕と契約して、魔法少女になってよ。」なんでも1つだけ望みを叶えてくれるというまるで猫のような兎のようなぬいぐるみのような生き物に縋ってしまいたいのは、ただ哀しいだけの虚構なのではないだろうか。「大丈夫。どんな奇跡のような願いでも、叶えてあげられる。」私は俯きながら、静かにその生き物を抱え上げた。


啜り泣く声が聞こえたとき、私では支えになど決してなれないのだと知った。目尻が赤くなっているのを見たとき、見なかったふりをして微笑む自分に吐き気がした。穏やかに談笑する二人を知ったとき、私は締め付けられる心に気づかぬふりをした。醜い私を見つけたとき、それでもいいと思う自分がいた。もう一度だけでいい、「きゅうべぇ、本当に、なんでも叶えてくれるの?」「あぁ。今の君の望み、僕は確かに叶えられるよ。」あのね、私は、もう一度だけ見たいの。それだけなの。

「佐久間、退院おめでとう。」「ありがとう。」照れ臭そうに笑った彼にペンギンのぬいぐるみを差し出すとそれはそれは嬉しそうに笑うので、つられて私も笑顔になる。大分離れた場所から佐久間を呼ぶ可愛らしい声が聞こえて胸の中がもやっとしたけれど、私はそれを悟らせないように笑顔は崩さない。もう、慣れてしまったのかもしれない。「行ってあげて。」困ったような顔をして、けれど嬉しそうにごめんなと言って駆けて行ってしまった。「押しが弱いですよ、先輩。」「いいの。佐久間が笑ってくれるなら、私はそれで。」「…あーあ。佐久間先輩、馬鹿だなぁ。毎日お見舞いに来てくれた先輩じゃなくって、あんなぽっと出の女の子選んじゃってさぁ、もったいない!」「…そうだね。こんなに尽くす女の子なんて、私くらいしかいないのにねー。」でもね、成神くん、私、報われなくてもいいの。

気持ち悪い。不気味な赤色の蟻を踏み潰しながら、アイスブルーのふりふりを翻し走っていた。大きな蜂のような魔女は私を食べようと飛び回り襲ってくる。恐怖で今にも動かなくなりそうになる体をむりやり動かし跳躍しようとして、失敗した。蜂の体と接触し、弾き飛ばされたのだ。壁にたたき付けられて一瞬視界が暗闇に閉ざされる。「死にたくない、」一気に距離を詰めてきた魔女をリボンで縛り上げ、地面にたたき落とした。ふわりと広がったスカートから大量の拳銃が滑り落ち、しかしそれには触れずに魔法の力で発砲。できればこれで、決めてしまいたい。私の気力は限界に近い。


「僕と契約して、魔法少女になってよ。」可愛らしいぬいぐるみが夢のような提案をわたしに持ち掛けた。頬を軽くつねって感じる確かな痛みにこれは夢ではないと確信した。「今よりもっともっと、可愛くなりたい!」可愛くなって、皆に愛されたい。

いつの間にかきゅうべぇの特等席はわたしの頭の上になっていた。可愛らしいデザインのソウルジェムを見つめて、ゆっくりと微笑む。きっと今のわたし、絵に成る程可愛らしいわ。「ゆみかには確かに才能があるけど、経験がないから無理だと思うよ。グリーフシードの数だって、」「そんなこと関係ないわ。わたしならきっと大丈夫。だってわたしは愛されてるはずだもの。」魔法少女はわたしだけでいいの。皆を護る素敵な女の子はわたしだけでじゅうぶん。「この町から出て行ってくれないのなら、わたし、あの子を倒すわ。特別なのはわたしだけでいいの。ヒロインは絶対死んだりしないんだから。」ソウルジェムを指輪に変えて椅子から立ち上がり、窓から外へ勢いよく飛び出した。わたしは死なないわ。

「あなたは魔法少女のことをわかってないのよ。あなたの願いを聞き入れることは私にはできない。」「殺すしかなさそうね。わたし、残念だわ。」魔法少女の衣装ってとっても可愛くて大好き。紫色のミニでレースのスカートなんか、わたしにとっても似合っているもの。あの子の薄水色の服は佐久間くんを連想させてなんだか嫉妬しちゃうけど、関係無いわ。わたしが佐久間くんの体を愛で治したんだもの。あの子なんかに負けたりしないわ。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -