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空は青く澄んでいる。頬を撫でる風は心地好い。久しぶりに着た気がする制服は体に馴染んでいて、なんだか変な感じがした。穏やかに微笑む真理亜さんにそっと背中を押されて、リフティングを延々としている男の子の背中に近づいた。水色のきれいなポニーテールが揺れている。
「あの、風丸くん…?」
「?…え、名前、なのか?なんだよ…あれから2日しかたってないぞ、」
「あ、えっと…」
「…名前?」
「…私、風丸くんと仲良かったんだ」
「は?」
「あ…。えっと、半年より少し前くらいからのこと、全然覚えてなくて…」
「嘘、だろ?」
「…嘘じゃ、ないんです。ごめんなさい」
ぎゅっとスカートを握りしめていた手に手を重ねられて、寂しそうな声で名前を呼ばれて、ぐら、と視界が揺れた気がした。
「何か、大切なこと、」
「え、?」
「何か大切なこと、忘れてる気がするんです」
「…」
「私、…」
「…ゆっくりでいい。俺のことだけじゃなくて、皆のこともあるしな」
「…みんな?」
「サッカー部の皆だよ。名前はサッカー部のマネージャーやってたんだ」
「なんだかすごく、意外。私部活とかするつもり全然なくって…。あの、もしよかったらもっと聞かせて欲しいんですけど…」
「…実はさ、二日前に一度会ってるんだ」
「…ごめん、なさい。私、…」
「そのとき告白した」
「え!?」
真っ直ぐに見つめてくる彼の瞳から目をそらせなくて、驚いて半開きになった口をそっと閉じた。
「そのときまで、なんていうか、違和感はあったんだ。でもそれが何か気づけなかった」
「違和感…?」
「今の名前と話して、それが何なのかよくわかった。名前はどこか、無理してた」
「…むり、」
「学校にいたとき、大人しかった名前が急にどこか寂しげっていうか、なんか凄く大人っぽくなって、でもこの前会ったときは無理にそうしようとしてたっていうか…なんか、雰囲気が普通じゃなかったんだ。俺は冷たく感じた。もしかしたら、ずっと前から」
「…」
「今の名前はなんか、すごく、いい意味で普通だと思う。俺、」
「今の、…今の私は、ダメですか?風丸くんが好きになった私は、今の私じゃないんです、よね。…私、風丸くんのこと好きです」
「…よかった」
「え?」
「俺も、名前が好きだ」
「うそ、だって私、全然風丸くんと仲良くなかった」
「気がついたら目で追ってたんだ。それに、それを言ったら名前だって同じだろ」
「うん、そう…そうだね。私も同じ。なんか、信じられないや」
「俺もだよ」
「…」
「…」
「それじゃあ、私、行かなきゃ。いろいろ、しないといけない手続きがたくさんあるから。学校に行けるのは、もうちょっと後なんだ」
「そっか。…待ってるよ」
「…うん、またね」
「あぁ。じゃあな」
待たせていた真理亜さんと河川敷を少し歩いてから、何か忘れているような感じがして振り返ると、話す前のようにリフティングをしている風丸くんが小さく見えた。なんだかもう、会えない気がした。

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この話はこれで終わりです

誰が嘘つきかって言うと風丸くんと主人公と真理亜さんなのですが、どこでどういう嘘をついているのかは、個人の解釈に任せたいと思います。
一応時間軸的にはDE直前ってことを考えながら書いてました。でもその後とか、もしくは宇宙人編前でもいいかなぁ、と。
皆お互い嘘ついてんのわかってんのに嘘ついてる話って難しいですね。読んでてなんだこれって思いました。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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