short | ナノ






誰もいない施設の中を突っ切って、自室にするりと入りこんだ。何をするでも無く、ただ部屋の窓からきらきらと光る星を眺める。ゲームで精神すり減らしていると、些細なもののありがたみや、小さな優しさ、小さく色付く感情にそのベクトルまで、様々なことが事細かにわかる。鬱陶しくて仕方がなかった学校での会話は、いつの間にかもっと聞いていたいと私に思わせる。中身なんてどうでもよかった。どんな形でも、相手を探り合ったりすることなく、駆け引きなんて無しに、他の誰かと関わりが持てるのなら。
「名前さん、時間です」
「真理亜、さん…」
急に開いた扉の向こうに立っていたのは、いつものように穏やかな笑みを浮かべている、これでもかってくらいよく知っている人。
「とても寂しいです。名前さんは優秀ですし、だれも退場することを望んでいませんよ。帰ってきてくれませんか」
「私以外の誰も望んでないのは知ってたよ。私に心変わりして欲しくて、ここに連れてきた。けれど変わる気配が無いから、私を帰すために真理亜さんが来たんだよね」
「そうです。よい返事がいただけない時は、私が、日付が変わるまでにパルスの消滅と、ビリオンゲームに関する記憶の削除をしなければいけません」
「そう…。ねぇ、お願いがあるの」
「なんですか?できる範囲でなら、どうにかします」
「帰る場所はさ、風丸一朗太って人のところがいいの」
「わかりました。それくらいならどうにかできますから」
「ありがとう。もうすぐ日付が変わるね。ねぇ、もしかして泣いてるの?」
「私、名前さんのことは妹のように思っていました。でも、名前さんは違ったんですね」
「…うん。ごめん」
「いいえ、いいんです。もう、いいんです」
悲しみの感情はとても美しいと思う。硝子のように透明で、とても脆い。もしも福原がいてくれたなら、きっと私にも見せてくれただろう。この世界のありのままの美しさを。
「時間ぎりぎりまで、このままでいさせてください」
私を強く抱きしめている彼女の温もりを抱きしめかえして、ほんの少しだけ、私も泣いた。
「ごめんなさい。ありがとう。さようなら」
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -