short | ナノ






「…その、申し訳ないけど…あなたのこと、知らない」「そんな、そんなの、嘘よ…!」一瞬で変わった顔色と、震える体。人の心なんて、縋ることのできるものさえなくなってしまえば壊れるのはたやすい。「人違いじゃ、」「そんなはずない!私があんたを間違えるはずない!」左右に揺れ動く視線。微かに震える唇。「…」言葉を選んでいるかのような沈黙で返せば、あとは時間が解決してくれる。「バレバレな演技してんじゃねぇよ」「え?」沈黙を破った低い声に振り返れば、偉そうに腕を組み、笑みを浮かべている不動が立っていた。「"同じ学校"のやつが全部喋ってくれたぜぇ」「…?」「その女も同じ学校だったんだろぉ?」「…忍と、連絡取ってたってわけかよ。あぁ、もう、後少しだったっつーのにな」「どういう、ことよ」わけがわからないとでも言いたそうな女を一瞥して肩を竦めた。私に何も言う気はないことを悟ったらしい不動が口を開く。「簡単なことさ。こいつが二重人格っていう、ただそれだけなわけだ」「不動、まさか…」「はっ!真帝国のときのこいつが今のこいつ。つまりは二人目のこいつっつーこった」鬼道は信じられないとでも言いたそうに首を振って、じゃあ今日までの苗字は、と最もなことを口にする。当然忍が知らないことを不動が知っているわけもない。この場の全ての視線が私に注いだ。「…そっちが本当。そんで、まぁ、彼女を知らないっつーのは嘘なわけだけど。…私の体に、まだエイリア石の影響が残ってるって言ったら、どうする?」「は?」「何を…!」「私は自惚れでも何でもなく、そこの彼女が言ったように何でもできたから、休む間も無くいろいろな競技のいろいろなチームにたらい回しにされていた。強すぎてバランスを崩すから、ずっとはいらないって、ね。始めはいい。どこも歓迎してくれる。でも去るときには、恨まれて妬まれて…。暴言だけならいいけれど、暴力をふるう人達だってたくさん。頼れる人は誰もいなくて、大人は私を道具として扱う。そんなわけで精神的に限界がきていたとき、真帝国に連れていかれて、エイリア石を握らされた。石の影響で弱っていた精神は真っ二つ。それで私がうまれたっつーわけだ。…まぁ、あんたは最初の方しか理解できてないんだろうけど」「…馬鹿にしないで。理解、できるわよ…それくらい…」「…取り合えずさぁ、謝ったら?」「え?」「ん」顎で指し示した先にいる春奈ちゃんはぱちくりとして、あ、と声を漏らした。あの鬼道ですら苦い顔をしているのだから、他の人もきっと忘れていたのだろう。「あんたがいくら私のこと恨んでてもさ、彼女にゃ関係ないわけ。そこんとこはっきりしないとさぁ…が怒っちゃうんだよなぁ」「……悪かったわ。他の人も…」「あ、私…気にしてませんから」「…自分勝手に追い詰めてごめん。あんたが辞めた後、チームメイトが私についてきてくれなくなって、それで、…」「私はいいんだよ。慣れてっからさ。ただ、」「…」「イナズマジャパンを応援してね」





「真帝国のときのこと、今まで黙っててくれてありがとう」クッションを抱えてじっと色素の薄い髪を見つめていると、机に向かっていた視線を私に移して柔らかく笑う。「あぁ」「なんかね、」クッションを少しだけ強く抱きしめると、なんだか落ち着く気がして口が緩む。「もう、いない気がするの」心は、まるで自分のものではないように感じられるほど穏やかだ。「少しだけ寂しくて、でも、すっきりしてる。変な感じ」若干左に傾いた姿勢をそのままに、そこに座った佐久間と視線を交じらせる。これも、変な感じがする。「なぁ、」「うん?」「好きだ」頬どころじゃなく体全部が熱い。どきどきというよりはばくばくする。「わたし、も、好き」なんだか泣きたくなって、あのときのように佐久間にゆるく抱き着いて「好き」とただ一言口にした。




 柩の中のたった1つの希望は

 柩の中でその瞼をとじました

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