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「今日も皆、調子良さそうだね」楽しそうに言った秋ちゃんにそうだねと微笑んで、今日の風丸くんは昨日より少し速い、とメモ程度に書く。今日の夕飯を食べながらまとめて、お風呂の前に監督に出そう。皆の調子をつらつらと書きながら、練習後にしなきゃいけないことを頭の中で順序良く並べていく。「あれ?春奈ちゃん一人で一気にドリンク…運んでる…」「う、埋まってるね…」「なんかヒヤヒヤする…!休憩まで時間ないし、手伝ってくるね!」「うん、お願い」バインダーを秋ちゃんに渡して春奈ちゃんに駆け寄ろうとしたときだった。建物の影から出てきた人影が見るからに力の限りといった感じで、背後から春奈ちゃんを、突き飛ばした。「春奈ちゃん!」これから先のことなんて何も考えなかった。真っ白になりそうな頭をフル回転させて、固まってしまいそうな体を無理矢理動かした。ただただ、春奈ちゃんを助けなければ。それだけのために。ばらばらと地面に転がったドリンクにちらりと視線を向けてから、私にもたれる春奈ちゃんを見ると、驚いてうまく頭が動かないらしい。目を見開いて口をぱくぱくとさせている。「大丈夫?」「は、い…はい、大丈夫、です」「…どうしてこんなことするの?彼女は関係ないじゃない」大丈夫かとぞろぞろ集まってきたジャパンメンバーの先頭にいる鬼道くんに春奈ちゃんを少し無理矢理押し付けて、散らばったドリンクをぱっと拾い集める。「謝って。彼女を巻き込む必要なんてないはず」「…っあなたが悪いのよ!全部全部あなたが悪い!あなたがいなければ私はこんなとこにはいなかった!あなたがいなければ今頃私が…!っどうして何でもできるのよ!どうしてっ!私の、私の2年を返してよぉ…。あなたなんて、…いなければ、よかったのに…」誰だって譲れないものの一つや二つ、あるはずだ。プライドとか、お金とか、価値観。彼女の譲れないものに対しての、一種の防衛反応が、たまたま私に向いただけ。彼らは彼女が悪いというのかもしれない。けれど彼女が悪だと言うのなら、私は何だと言うのだろう。きっと、何にもなれない。心が軋む音がした。綺麗事を並べて善人ぶって、その上で自分のしたいことをするだなんて無理に決まっている。はじめからわかっていた。それこそはじまる前からわかりきっていることだった。脆すぎてつつけばすぐ壊れてしまうくせに、余裕なんてないのに人を気遣う。散々忠告してはいた。もしかしたら、私を押し込めて、償いは自分でするだなんて覚悟を決めたときから、こうなることはわかっていたのかもしれない。1と1。どちらも私でだということを忘れていたのは、本当は、私だったのだ。しわのような細かいひび割れで真っ白くなって、粉々に壊れるのは私でいい。目の前の彼女の、涙と苦痛に染まっている表情を瞼の裏に刻みつけて、がここいたいと望むから、私は私の譲れないもののため、のために、閉じた瞳をこじ開けた。

目覚めた希望


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一話一話がやけに長くて展開が迷子な感じの話を書きたかったのでこの時点で満足

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