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白と黒のボールがゆらゆらとゆれて、ぴたりととまって、落ちた。軽くなった頭の上を手で撫で付けて走り出す。いつの間にか長く伸びていた髪は少しうっとおしい。思いきりボールを蹴ると一瞬で揺れたネットが、愛おしいとさえ思った。サッカーはいい。スポーツは全て好きではあるけれど、サッカーが今までで一番楽しいと思えた。いや、今まで楽しいと思えたスポーツなんてあったのだろうか。もしかしたら、なかったのかもしれない。スポーツ以外でも、いつでも、どこでだって、楽しくはなかったのかもしれない。「まさか、あなたみたいな人がイナズマジャパンのマネージャーやってるなんて思わなかったわ。さすが、才女さまはやることが違うわねえ」「…」ああ、私は今、表情が消えている。しかし自覚していても、作ることはできそうになかった。「あんたみたいに人を見下すことしかできないやつがマネージャーやってちゃ、選手も迷惑なんじゃない?どうせ、頼まれたから、やってるだけなんでしょ?あなたにとったら日本一とか世界一とか、くだらないものでしかないものね。どうせ選手に対して、弱いとか、つまらないとか、そんなことしか思ってないんでしょ?」「…、……に」「…、……に」「は?」「んー?聞こえなかった?ちょっと口閉じればぁ?臭くてたまんないのよね」「な、なによあんた…!もういいわ!」彼女は動揺しているのか。今までただ黙って聞いているだけだった人間が、急にぽつりと言ったことに、動揺、したのだろうか。赤くなったり青くなったりする顔が完全に見えなくなって、彼女の姿形も見えなくなって、私は初めて胸が痛みを訴えていることに気がついた。いたくて、つらい。…くるしい。白と黒のボールがころころと転がって、まるで寄り添うように彼の足元で動きを止めた。皆を引き付けてやまないその前を見つめる瞳や姿勢は、私には少し眩しく思える。そんな彼が、困ったように言葉を探している。「…あのさ、気にしなくていいよ。私、気にしてないし」それに、初めてじゃないから。という言葉を飲み込んで、へらりと笑う。「思ってないよ」「へ、?」「みんなのこと。あの子が言ったふうには、思ってないよ。マネージャーだって、やりたいからやってるの。わたし、イナズマジャパンが大好き。みんなの仲間でいたい」「当たり前だろ!名前は仲間だ!みんなそう思ってるさ!」にかっと笑った顔はどこか安心させてくれるものがあった。じわりと目尻に浮かんだものを知らんぷりして、私も笑う。「ありがとう」「なあ、サッカー、しようぜ!」そう言って彼が蹴ったボールは綺麗な弧をえがいて私の方へとんでくる。「うん、もちろん!」とん、ときたボールを自分の真上に蹴りあげて、取ってよね!と少し早口にいえば、おう!と返事が返ってきて口が緩む。ボールをまっすぐ、力強く、円堂くんの真正面に蹴った。

(何も、知らないくせに)(だから、言ったのに)覚えのある違和感を飲み込んで、ただがむしゃらにボールを蹴った。

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メンタルの弱い天才

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