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「皆、明日は試合だし、ちょっと手の込んだやつ作ってみたりとか…どうかなって思ったんだけど…」だんだん小さくなっていく語尾を、それでもちゃんと言って、ちらりとマネージャー3人の顔色を伺った。「いいと思う」「ナイスアイデアです!」「私も…いいと思います。それで、あの…どんな料理を?」「あ…」(いいよねぇ天才さんは)(私たちとは生きてる世界が違うっていうか)(そもそも考え方とか違うよね)(ものの捉え方とか?)(でもさぁ、あの人って楽しいのかなあ)(友達いないじゃん?)(笑わないし能面みたい)(ウケるー)「それは、考えてない…」「じゃあ煮物とかどうですか?」「だったら急いで買い物行かなきゃ」「何の煮物にします?」「鯖…」「…冬花さん好きなんですか?」「無難にカボチャでいいんじゃないかな」「冬花さんいいですか?」「あ、はい」「じゃあ名前先輩、一緒に買い出し行きましょう!」「う、あ、うん」

「カボチャ、いいのあるといいねー」頬を撫でた風に微かに笑みを浮かべると、春奈ちゃんはどこか嬉しそうに笑った。
「楽しそうですね」「そうかな…うん、そうかもね。サッカーに会えたから、かな。こう言ったらあれだけど、不動くんに、感謝だね」「え?」「…え?」「もしかして、名前さんって…真帝国のときに初めて…?」「あ、うん…」嘘はつけない。これで嫌われても、仕方ないのかもしれない。自嘲気味に笑んで、春奈ちゃんを見る。「すごいです!努力、したんですね!」「…」嘘は、つけない。けれど本当のことも、言えない。春奈ちゃんの顔を見ないように口を閉ざしたまま、ごまかすように微笑んだ。

「せ、先輩!重くないんですか!?」「重くないわけじゃないけど、持てない重さじゃないから…」力持ちなんですね…!と言った春奈ちゃんに少し苦笑いを浮かべて、ちらりとかぼちゃとペットボトルを見る。たしかに、女の子が持つ量じゃないのかもしれない。「一応筋トレとかしてるし…」「サッカーはしないんですか?」「ん…グラウンドとかいつも誰かが使ってるから、ちょっとね」「皆さん気にしないと思いますけど…今度誰か誘ってみたらどうですか?…佐久間先輩とか!」「えっ!あ、う、さ、佐久間!?」「あれ?先輩もしかして動揺してます?ていうかいつの間に敬称を取ったんですか!何があったんですか!?」「なにも…なにもない…!」「嘘ですね!耳まで真っ赤です!いつですか!?」「う…春奈ちゃんぐいぐいくる…怖い…。「い つ で す か」「き、きのう…」「ははーん、佐久間先輩のお部屋ですか!」「!な、なななんで知ってるの」「だって先輩、昨日の夜はお部屋にいませんでしたよね!」「…は、春奈ちゃん、もしかして…」「立向井くんと、木暮くんと、…あー、その、お兄ちゃん、も、一緒でしたけど」「う、うそ…。鬼道くんなんてとくに私にいい印象なんかないはずなのに佐久間くんと話してるの知られ、あ、う、変な誤解され、て、」さあっと顔色が悪くなっていくのが自分でもよくわかる。2、3歩たたらを踏むと、春奈ちゃんが慌てて大丈夫ですよと言う。「お兄ちゃん、お二人のこと応援してるんですよ」これほど信じられないものはない。
「えっと…なにがあったの?」「その、実は…」だん、と小さめのかぼちゃを包丁で真っ二つにした私を見て、秋ちゃんが頬をひきつらせた。「あ、佐久間さん?噂をすれば…ですか」「どうしたの?」「?あぁ、少し擦りむいて…。マネージャーが一人で忙しそうだったからこっちに来たんだ」「あ、すみません!名前さん、あと私やるので佐久間さんの手当てと、グラウンドの方お願いします」「あ、はい!」ばたばたと簡易救急箱を開いて消毒液と絆創膏を取り出すと、悪いなと申し訳なさそうに言われて、きゅうと胸が締め付けられる。「ううん、これが仕事だから…。でも、あんまり怪我しないようにね。…ちょっとしみるかも」傷に砂が入っていないかよく確認して、消毒液を吹き掛け、優しく拭い絆創膏を貼った。マネージャーをやって、手当ても素早くなったと思う。なかなか上手くできたので満足げに頷いて、はいおしまいです。なんてふざけたように笑って言って立ち上がった。「あ、痛む?もしかしてアイシング必要なところとかあった?足首とか…」「あ、い、いや、大丈夫だ。ありがとう」「よかったぁ。それじゃあ一緒に行こう。もしどこか痛んだらすぐに言ってね」「あ、あぁ」
「お二人とも凄くわかりやすいのに、周りにバレてないと思ってるんですよね…」「あはは…まあ、うまくいくといいよね」

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鬼道は本気でうまくいけばいいと思ってる

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