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私の中のもう一人の私。まるでコインのような、表と裏の私たち。窓にうっすら写るエメラルドグリーンの瞳が1回瞬いた。そういえば、名前、聞けなかったな。私と同じ名前なのかな。窓の向こうに視線を移すと、バーミリオンとビリジャンが絶妙に混じり合っている鮮やかな空が広がっていた。思わず感嘆の息をついたところで、マナーモードにしていた携帯がワイシャツの胸ポケットの中で震えだした。1、2、3、4。メールなら3秒で止まるはずの振動が止まらなかった。電話だ。パカッと携帯を開いて、大分久しぶりに見るその番号に首を傾げながら、しっかりと通話ボタンをおした。「もしもし、」「あ、名前さん!私、音無春奈です!」「春奈ちゃん、久しぶり!急にどうしたの?」「あのですね、実は世界大会がありまして…」「うんうん、」「名前さんには、日本選抜選手のマネージャーをして欲しいんです!」「え、私が…?」「はい!マネージャーの中に、一人はサッカーの上手い人がいた方がいいのではという話になりまして、それならと私が推薦しちゃいました!」「あ、ありがとう…。でも私、真帝国のときに皆を傷つけたりして…そんな私がいたら、皆、その…」「それなら大丈夫ですよ!皆さん、名前さんがいい人だってこと、ちゃんと知ってますから!だから、お願いします!」「私、いい人なんかじゃない」「名前さん…」「でも、頑張ってみるね。声かけてくれてありがとう、春奈ちゃん」「!…はい!」
そんな電話があってから、しばらくたったある日。急な電話だったというのもあって、私は他の人より少し後にライオコット島へ飛び立った。がらがらと少し乱暴に石畳の上を引きずるキャリーバッグは、少し、赤いセーラー服には似合わない気がした。片手に握ったメモには住所などが書かれているが、悲しいことに私の頭では住所で場所を特定することはできそうになかった。はぁ、と一つため息をついて、申し訳ないが春奈ちゃんに迎えに来てもらおうと携帯を開いた。「名前?」「え?あ、さ、佐久間くん?久しぶり」「久しぶり。もしかして、応援に来てくれたのか?」「あー、うーん。そんな感じ?」「なんだそれ」佐久間くんは不思議そうに笑っている。「イナズマジャパンのマネージャーに、なるから…」そう言うと、きょとんとしてから優しげに笑うから、さっきから速まっていた鼓動がさらに速まった。どきどき。何て言ったらいいのかわからない。もう頭も上手く動かなくなってきた。「今から宿舎に行くのか?」「うーん…あ、」はっとして片手に握っていたメモを佐久間くんに見せると、この住所は宿舎なのだと教えてくれた。「ありがとう!…あの」、もしよかったら連れていってください。最後は小さな声で言った。声は微かに震えていた気がして、ばれていないだろうかと冷や汗がつたい、恥ずかしさで頬が熱を持つ。あぁ、別にいいけど。あっさりと帰ってきた返事に、「い、いいの!?」と、思ったよりも大きな声が出て、佐久間くんは驚いていた。「あぁ、ちょうど帰るところだったから。行くか」「う、うん」がらがらと音を立てるキャリーバッグが場違いな気がして、タイヤをしまい込むと、それに気付いた佐久間くんに軽々とした動作で持っていかれてしまった。「さ、佐久間くん!?」「重いだろ」「う、あ、ありがとう…」「変わらないな」「そんなことないよ…全然、そんなことない」「名前、?」「…佐久間くんは、前より笑うようになったね!」「あ、あぁ…。そうかもな」「みんな、許してくれるかな…。私、真帝国のとき、洗脳されてなかったわけだし…」「大丈夫。名前の優しさは、皆知ってるさ」「…ありがとう」優しい。はたしてそうなのだろうか。皆が言う優しい私は、きっと、私じゃない。あのとき、もう一人の私を認識したそのときから、私は、どこか違和感を感じている。私が私じゃないような、そんな違和感。真帝国の以前の私は、どうだっただろう。こんなに、こんなふうには、笑っていなかった気がする。「どうしたんだ?」「あ、ううん、なんでもない…」ああいうの好きなんだな。私が無意識のうちにじっと見つめていたショーウインドーに並んだぬいぐるみたちを見て、佐久間くんは笑う。私はこんなに嘘が下手だったのだろうか。考えていることを簡単に悟らせてしまうような性格だっただろうか。「意外?」「そうだな…いつもサッカーしてるようなイメージだったから」「うーん。最近は、そんな感じかも…」他人に理解されることを望んでいなかった。というよりは、他人に理解されることなど無いに等しかった。天才だとか、才女だとか。人を寄せつけないようなレッテルを貼られ、また、レッテルの通りになるよう育てられた私は人間味が無いと言われ避けられ続けた。私は、私のことを知らない人がいない環境で育ったせいか、真帝国学園のグラウンドへ足を踏み入れたとき、とても驚いていた。誰も私を知らない。それがどれ程嬉しかったことか。(どうでもいい)そんな風に、至極興味なさそうに言った佐久間くんの本心を知りたいと思った。洗脳される以前の佐久間くんを知りたいと思った。私が興味を持った初めての人をふりむかせるために、ちょっとだけ、頑張ってみようか、なんて。どうなっても、知らないよ。愉快そうに笑う彼女の声が聞こえた、気がした。



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世界編のつもりですがおかしいところいっぱいあると思います。佐久間の口調とか特に。もう捏造ひど過ぎますけど見逃してくださいごめんなさい

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テーマ「人外ファンタジー」
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