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ああ、殺せそうだ

そんなことを初めて思ったのは、いつだっただろう。気付けば私は、人を殺せるか殺せないかで判断するようになっていた。悪気なんてこれっぽっちもなくて、けれど人を殺すことはイケナイコトだとみんなは言う。私も言う。ニュースで流れる計画的殺人事件なんて悍ましい。関係の無い人を巻き込むテロなんてもっての他。みんなと同じ普通の考えのはずなのに、けれど私はどこか違うらしかった。

いつだってどこだって結局悪くて酷いのは私だとみんな言う。私も言う。私がおかしいのはわかってる。理解している。けれど、はて、本当に悪くて酷いのが誰かなんて、誰にもわからないのではないだろうか。例えば殺し屋。例えば暗殺者。人を殺すことを生業とする彼らははたして本当に悪くて酷いのだろうか。私には本当のところがどうなのかなんてわからないけれど、私が本当に、ただただ酷いと思うのは、殺人鬼。おそらくだけれど、私はその殺人鬼と同じ思考を持っていたのだろう。だから今、私はきれいな赤色の血溜まりの中で立っている。そう、それは、きれいだった。きたない、でも、きれい。変なの。矛盾してる。

「やっちゃったぁ」

あーあ、と呟きながら、私は凶器となった鉄パイプをくるくると回していた。

くるくる、くるくる、くるり

なんとなく、なんとなくだけれど、振り返らなければいけないような気がして、振り返った。振り返ってしまった。そこには麦藁帽子の男の人と、顔面青刺の男の子。

見られた。一番目に、そう思った。
殺さなきゃ。二番目に、そう思った。
殺せない。三番目に、そう思った。

なぜ殺せないのか。その時その瞬間はわからなかったけれど、あとあと考えてみれば当然のことだと頷ける。深く濃い血の匂いと独特の雰囲気に、ああ格が違うのだと無意識下で判断していたからなのだと思う。否、無意識下で、恐怖していたからなのだ。そのときの恐怖は、今は無い。

わたしは人が嫌いだ。
人は他人がいないと生きていけない弱い弱い生き物。

他人は皆私を嫌いだと言った。私も言った。
他人は皆私を怖いと言った。私も言った。
他人は皆私を哀れだと言った。私は黙した。

私は独りだった。ずっとずっとずっと独りで、だから私は、私のことはもちろん、他人すらも嫌いで怖くて哀れだと言い続けた。あの日から私は殺人鬼となり、家賊ができて独りじゃなくなって、人を嫌いだとは思わなくなった。人は嫌いじゃない。それなのに殺してしまうだなんて、酷く哀しい話だ。理由も無く、感情も無く。殺しに何の意図も無い殺人鬼。悲しくて哀しいはずなのに私が幸せなのは、きっと独りではないからなのだろう。「家族にならないかい?」針金を思わせる彼が言った言葉に、私は荒れた唇で答えた。

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