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こんなんじゃ、外出は出来ないな。痣だらけの体に湿布をぺたぺたと貼り付けると、つんとする臭いがした。やることもないので、なんとなく傍にあったリモコンを使ってテレビをつけると、ちょうどというかなんというか、中学サッカーの決勝がやっていた。サッカーがやけに人気なこの国では、中学生の大会も中継されるのだ。ああ、いいなぁ。楽しそう。気づけばぼろぼろと涙を流していて、自業自得だというのに、そんなこと許されるはずが無いのに、逃げたい、なんて思っていた。馬鹿みたい。初めから、逃げようと思えば逃げられるのだ。でもそれをしないのは、彼をあんな、依存しないと生きていけないような風にしてしまったことへの責任があるからだ。責任なんて言葉はやさしいかもしれない。それか、まったく見当違いのことかもしれない。私は罰が欲しいのだ。怠けてばかりで誰も幸せにできない私を誰かに罰して欲しかった。だから、でも、わたしは、どうしたら。



大好きとか愛してるとか嘯くテレビをつけたまま、私は荷物を纏めて家を飛び出していた。荷物といっても、下着と、財布と、通帳と印鑑だけだ。できるだけあの生活を匂わせる物は持ちたくなかった。つまるところ、やり直したかったのだ。体のあちこちが痛み、軋んでいたが、そんなことはどうだってよかった。はやく、はやく。見つけた公衆電話に転がるように駆け込んで、10円玉を出して、受話器を手に取った。お金を入れて、いつか燃やした紙に書かれていた番号を、打ち込んでいく。合っているだろうか。きちんと繋がるだろうか。出て、くれるだろうか。体が震えた。呼吸は浅い。視界は揺れる。受話器を落としそうになりながら、耳に押し当てる。数回のコール。はやくはやくと視界を閉ざして祈った。たすけて。
「はい、」
「……」
「……どちらさまでしょうか」
声は出なかった。

ゆらゆらとゆれる魚の尾をぼうっと眺めながら、私は彼の帰りを待っていた。監禁も暴力紛いの行為ももう無い。私の日常は、正しく平和な世界となった。いつかの私は教師たちが敬遠したがるような生徒で、つまり問題児で、不良だった。私はちょっと自分の感情に正直なだけ、だった。それが歪に成長し、壊してしまったあの人は、今は別な女とともに暮らしている。女が別れを切り出したときどうなるかはわからないが、助けようとは思わない。私はクズで、どうしようもない女だ。どこまでいっても底辺で、燻って、崩れ消えていく。一生続けばいいと思うこの安寧に、未来は見出だせない。どうしても私は地獄行きのチケットを手放せないでいた。彼は全て分かって、私を傍に置いていた。それでもいいと言ってくれた。だから私は、きっと、一人で死んでいく。消えかかった痣が残る腕を伸ばして、歪な鶴を取った。隣に並ぶ綺麗な鶴は、しゃんと前を向いていた。鮮やかな、青だった。




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救われたい、でも救われない。変わりたい、でも変われない。だって思っているだけだから。そんな話でした。読み返してみると大分受け身なところが目立つ気がしますが『寂しがりで、お姫様で、周りをダメにする人』というイメージで書いているつもりでした。ここまで読んでいただきありがとうございました。

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