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※友情



昔の思い出。一人で絵本を読んでいた私に話しかけるボールを持った女の子。濃い青色の髪が太陽の光で輝いていた。私は目を細めて、……



「名前ちゃん、帰ろ!」
「……うん!」
春奈ちゃんに声をかけられて、ぼうっとしていたことに気付いた。慌てて鞄を手に持ち立ち上がると、春奈ちゃんは楽しそうに笑っている。濃い青色の髪が太陽の光で輝いていて、とても綺麗。私が行こうかと言うと、どこかによって帰ろうよなんて言って、うなずいて、はしゃいで、私はまた、笑った。



昔の話だ。私がまだ孤児院にいたころの話。周りの人間がなぜだか怖く思えて、私は一人で絵本を読んでいた。ふと影がかかり顔を上げると、ボールを持った女の子が話しかけてきた。「いっしょにあそぼう!」濃い青色の髪が太陽の光で輝いていた。きれい。私は目を細めて、あそばない、と冷たく突き放した。悲しげに去っていった彼女を見送った視線をまた絵本に戻して、黙々とそのページを見つめていた。



「春奈ちゃん?」
声をかけると、悲しそうに、寂しそうに手に持った何かを見つめていた春奈ちゃんが跳ねるように私を見た。ちょっと悪いことしたかな、なんて思って、ごめんね、と苦笑いを浮かべた。
「どうしたの?……それ、」
春奈ちゃんが手に持っていたものは、絵本だった。懐かしい、懐かしい、絵本。いつだか、私がずっと見つめ続けていた絵本。どうして飽きることなく見つめ続けていたのかといえば、その絵本がとても面白いだとか、目を惹くものがあるだとか……もちろんそんなわけではない。そこには複雑な理由などなく、とても、……そう、とても単純。
「名前ちゃん、読んだことあるの?」
「うん」
「……おもしろい?」
「ううん」
「……そうなんだ」
「……」
「私が孤児院にいたころにね」
「……うん」
「どうしても仲良くなりたい子がいて」
「……」
「毎日、話しかけてたの。でも、いつもこの絵本を読みながら、遊ばない、って言って……。結局、一度もその子とは遊べなかったんだ。私が先に引き取られちゃったから、その子がどうなったのかもわからないの。今思うと、毎日毎日、しつこかったかなって。迷惑だったかなって……思って……」
「……」
「……名前ちゃん?」
「形見だったの」
「え?」
「形見じゃ、ちょっとおかしいか。多分、死んでないし」
「名前…ちゃん…?」
「私ね、孤児院に入ったばかりで、皆優しくしてくれたけど、両親に言われたみたいに、また、いらない、なんて言われたらどうしようって思ってた。だから、まだ両親が優しかった頃に買ってもらった、孤児院にある唯一の親との思い出の絵本を毎日眺めてた。そんな私に、毎日話しかけてくれる女の子がいたの。嬉しかった。私、必要なのかなって。毎日、飽きもせずに私のところにくる女の子と、私も遊んでみたいなって思ってた。でもその女の子は引き取られて行って、そのすぐ後に私も引き取られちゃって、結局、一度も遊べなかったんだ」
「うそ……」
「今は、毎日遊んでるけどね」
「ほんとうに?ほんとうにあのときの?……ほんとうに、迷惑じゃなかったの?」
「うん、嬉しかった。だから、ごめんね。ありがとう」
「ううん……いいの……嬉しい、よかったぁ」
ぼろぼろと涙を溢しながら笑う春奈ちゃんが可愛くて、いとおしくて、きゅっと抱き締めていた。抱き締めて、私も、泣いていた。ごめんね、ありがとう。あのときから、
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テーマ「人外ファンタジー」
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