short | ナノ






半田の妹設定。


幼なじみコンビ恐るべし。10年前無駄に力強く言っていたお兄ちゃんの言葉を、私は今日初めて理解した。なるほど。お兄ちゃんが見てたのはこんな光景なのね。
ずっしりぎゅうぎゅう中身が詰まった大きな、もう、それはもう大きな紙袋を2つずつ一生懸命サッカー棟に引きずってきた我らがキャプテン神童拓人とサッカー部が誇る美形ディフェンダー霧野蘭丸を見て思った。私と同じく1年生である皆はあきらかにびびっている。羨ましがるとかそういうレベルの量じゃない。
「ちゅーか2人とも量増えてね?」
「これでも直接来た分は断ったんだけどな…。」
人数は馬鹿みたいに多い学校だからなぁ。引きぎみで水鳥さんは言う。今日は部活どころじゃないなと凄く疲れた顔で霧野先輩が言うと、あぁ…と、この人大丈夫だろうかと心配に成る程覇気の無い声で神童先輩が頷いたため、今日の部活は(手作りした人には大変申し訳ないが)皆がもらったチョコを消費することになった。半ば適当に寄せ集めると、なんというか、山だ。山がある。ちらりと音無先生と円堂監督をみると、懐かしい光景ですねと話していたので、やっぱりお兄ちゃんはこれを見たんだと思う。
「ねぇ名前、」
「天馬?何?」
「昨日お菓子作るって言ってなかった?」
「…。」
その瞬間、自分でもわかるほど明らかに体がピシッと固まった。あえて言わなかったのだろう信介はあちゃー…と言って頭を抱えている。このタイミングで、手作りお菓子を出せと?このタイミングで?
「なになに、半田も作ってきたの?」
「で、でも、友達にあげちゃったので、もう無いんです。」
聞こえたらしい浜野先輩に思わず苦笑いで答えると、今まで黙って状況を見守っていた狩屋と影山が私の持っていた紙袋をひったくった。
「あっ!」
「わ、美味しそう!」
「なんだ、部員の分あるじゃん。」
影山くんがキラキラした目で紙袋からひょいっと綺麗にラッピングされたチョコブラウニーを取り出した。失敗したなんて嘘で、むしろ凄く上手くいった自信作だ。ラッピングだって頑張った。でも、こんなにたくさん山積みにされたお菓子たちは全部が全部美味しそうで、私のなんかが紛れ込んだら、悪い意味で目立つだろう。それに、こんなにたくさんあって皆困ってるのに、私なんかのが増えるのは、よくない。うわ、やばい、泣きそう。
「せんぱーい、半田が旨そうなの作ってきてくれましたよー!」
「かっ狩屋てめええええ!!!」
「半田さんどーどー!」
「あのね影山くん私は馬じゃない!」
「ちゅーかこれ旨くね?」
「すっごくおいしいよ名前ちゃん!ね、天馬!」
「うん!すごくおいしい!」
何勝手に食ってんだよもう嫌だ泣きたい。泣きそう。霧野先輩と神童先輩が笑顔でおいしいと言ってくれてもう思い残すことはないです。泣きます。
「菓子の山を眺めながら食うのってなんか…。半田?お前ずっと下向いてどうし、!?」
「あーあ、泣かしちゃいましたね倉間くん。」
「ちゅーか倉間サイテー?」
「はあ!?」
たしかに倉間先輩ので、こう、ぐさっときて涙腺決壊しましたけどね!中途半端に泣き虫で悪かったな!ちくしょう!中途半端はお兄ちゃん譲りだよちくしょう!
「大丈夫?」
「気にすんなー。」
山菜先輩と水鳥さんが頭を撫でて慰めてくれて、もうほんと自分何してんだろうって真面目に思う。気を使わせて迷惑かけて…。
「悪ぃ。」
ふるふると首を横に振ると、ほっとしたように息をついてもそもそとお菓子を頬張る倉間先輩がいた。ちっちゃ可愛い。



そんなこんなで慌ただしく過ぎるバレンタイン。もう甘いものはたくさんだと気持ち悪そうに胃を押さえながら帰る皆を横目にゴミを片付けていると、背中から半田と声がかかった。
「霧野先輩?」
「今日たくさんお菓子食べたけどさ、」
「?」
「半田のやつが一番旨かったよ。ありがとな。」
「…。」
霧野先輩超イケメン。俯いて真っ赤になった私に優しく笑いかけながらじゃあなと言って帰っていく先輩に小さくさようならと返すと、後片付けもそこそこにしゃがみこんだ。霧野先輩、超イケメン。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -