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独特な香りが鼻を刺激する中、俺も名前も涙を流さずただ静かに座っていた。木の柩の中で花束に飾られた真っ白な彼女を見ても、燃えて骨だけになった姿を見ても、涙は欠片も出なかった。
「泣けなかった。」「俺もだ。」
きゅっと手を繋いで河川敷に座る俺たちは端から見ればただの幸せそうな恋人たちなのだろうか。肩に寄りかかる名前の熱と重みが夢のようにふわふわしていた俺の意識を現実へと引き戻して、胸の中に杭を打ち込まれた気がした。
「今さらだけど、ね、泣いても、いい?」「あぁ…好きなだけ、泣けよ。」
肩を寄せあうと、いつものシャンプーや石鹸の匂いとは程遠い、ついさっきまで嗅いでいた香りが鼻を刺激してから当然のように涙腺も刺激していく。
今日は好きなだけ泣こう。明日からはまた別な現実が始まるのだ。そう思った俺は間違っていなかった。名前も俺も、まるで何もなかったように笑ったりふざけたり、サッカーしたり。まったく、いつも通りだったのだ。
あの頃2つに結っていた髪は今では1つに纏めてあり、名前は結ぶのをやめておろしていた。名前の左手を包む俺の手にひんやりと伝わる金属の感触が心地いい。何もかも変わった俺たちだけど、2人で並んでいることは何も変わらなかった。あの頃からずっと、俺の隣は変わっていない。これからも変わらないというお互いの決意は、名前の左手薬指におさまっている指輪が示していた。
ごめんな。俺たちは進むよ。今までは進んだつもりで全然進めてなかったけど、でも、今度こそちゃんと進むから。
「行こう。」
小さく呟いた名前の手を握る力を少し強めると、答えるように名前も力を強めた。




千日紅を手折る日


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最後まで読んでいただきありがとうございました。千日紅はお花です。花言葉は終わりのない友情。10年の節目に、思い出にとらわれて進めなかった2人がたった1歩でも進むとき、彼女との友情も一緒に持って進むよ。という意味がこめられています。と今考えました。霧野が霧野っぽくないのはですね、最初風丸として書いていたからです。1話と3話の名前ちゃんの語りはこころに影響を受けた結果ですごめんなさい。何はともあれここまでお付き合いいただきありがとうございました!
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