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私が初めて彼女に出会った日は生憎と彼女が静かに眠っていたものですから、実際に話したのはそれから数日後のことだったように思います。
また寝ていたらと思い恐る恐る開いた病室の扉から中を覗くと、あの時まるで死人のようだった少女が穏やかに微笑みながら私を見ていました。私は常々一見気の強そうで取っ付きにくいなどと言われる容姿をしていますので、初見でそのような穏やかな笑みで迎えられたのは、私の記憶する限りではその時が初めてでありました。
「はじめまして。私は×××っていうの。あなたが名前ちゃん?」「はじめ、まして。苗字名前です。よろしくお願いします。」「蘭ちゃんが言ってた通り、名前ちゃんって可愛いのね。」「えっ」「!おいこら×××!」
私が可愛いだなんてことを言われることは中々無いことだった上、お付き合いしている蘭丸も言っていたとあっては頬が熱を持つことは当然でありました。彼はあまりそういうことを言わない質でありましたし私も特に望んではおりませんでしたが、やはり好いた方から(直接でなくとも)言われていたということはとても気恥ずかしく嬉しいことだったのです。
それから蘭丸が花瓶の水を入れ換えている間の短い時間、私は彼女から蘭丸に関する話を聞いていました。かといって私が彼女に嫉妬するようなこともなく、むしろ彼女に好感を持つ程でありましたので彼女はとても話すことが上手かったのでしょうが、対して私は口が大変下手でありましたので、彼女は特に楽しくもなかったのでしょう。特に彼女の隣にいた彼を横からとってしまった私のことを罵りも嘲りもしないでいた彼女は中身も大変よくできた人でありました。
帰りの暗い道を蘭丸と二人で歩いていたとき、唐突に彼が「楽しそうだった」と「ありがとう」と言いましたので、私は来てよかったと勝手に思い込んでいましたし、今思えば本当に「来てよかった」と言えるほどだったのでしょうが、当時の私は、彼女の葬式の後ひたすら悩み続けておりました。そこから掬い上げてくれたのは蘭丸でしたが、彼には大変な迷惑をかけていたことでしょう。今もかけていると言われれば確かにそうなのでしょうが、今も昔も彼は嫌な顔一つせず私の隣にいてくれます。
私はこの日になる度、彼が彼女と私を重ねているのではという大変失礼なことを思いつきますが、彼の笑顔を見る度にその失礼な風船がたちまち萎んでへたりと落ちるのです。
意気地無しな私が彼女の墓前に立つことは如何様な罪でありましょうか。いくら問いかけても、返事はありませんでした。
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