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彼女が髪を切ったのは、突然だった。俺は彼女の今まで綺麗にのばしていた黒くて長い髪が好きだったので残念だと思ったけれど、切ってしまったものを残念だのなんだのと言ったところでまた戻るかと言えば決してそんなことはないので、似合うかなと不安そうな顔をしている彼女を安心させるように、笑顔で似合ってるよと言った。
彼女が唐突に俺の彼女である名前に会いたいと言い出したのは、名前が初めて俺の名前を呼んだ日だった。切なそうな名前の声が耳に残っていた俺は、戸惑いながらも了承していた。おそらくは、少しでも名前と一緒にいたいという気持ちがあったからだろう。
結局、名前と彼女は気を許した仲にはなれなかったのだと思う。お互いに遠慮し合っている節があったし、そもそもどちらもあまり社交的とは言い難かったのだ。そんなときこそ俺がなんとかしなければいけなかったのだろうが、その時は俺もいろいろと考えなければいけないことがあって、二人を仲良くさせようだなんて気が回らなかったのだ。いや、本当は、とられてしまうかもしれないという醜い嫉妬があったんだろう。今なら、わかる。あのときは彼女が名前にとられてしまうかのような気がしていたが、実際は彼女が名前をとろうとしていたのだから、俺が無意識に警戒と嫉妬を抱いていたのは、名前に対してではなく彼女に対してだった。
今も俺の隣にいてくれる名前は、毎年この季節になると時折自嘲の笑みをふっと浮かべることが多くなる。ちょうど、彼女が死んだこの季節、この月、この日。
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