好きです。付き合ってください。なんてありふれた言葉だろう。私の本質に気づく気配すら無いくせに、愛を囁くだなんて勘違いもいいところだ。八田くん。柔らかく名を呼べば、下に向けていた視線を私へと向けた。その視線の中に、柔らかく温い期待が孕まれていることを確認してから、私は冷たい笑みを張り付ける。
「ありがとう。私も八田くんのこと、好き」
「ほ、ほんと!?じゃ、じゃあ、その、よろしくな!」
「ふはっ」
「ん?」
「んなわけねぇだろバァカ。おめでたい頭だなぁ」
「は、花宮さん?」
「あ?……あぁ、何、お前、もしかして私のことよく知らないくせにコクったわけ?ふはっ!救いようの無い馬鹿だな!」
「それが本性?……騙してたのかよ……?」
「騙す?猫被ってただけだろ?あ、言いたいなら言っちゃえば。花宮さんは猫被ってまーすって。まあ言ったところで誰も信じないだろうけど。っていうか本当にオッケーされるとでも思ってたワケ?はっ馬鹿すぎ。八田くんみたいな不細工じゃ私に釣り合わないっていうこと、よく鏡を見てお勉強したら?あーあ、無駄な時間過ごしちゃった。私部活あるから。じゃーね」
鼻で笑って背を向ければ、青ざめた顔は見えなくなって、いやぁ、すっきりした。こいつにコクられたらこっぴどくふってやろうと思ってはいたが、はたしてトラウマになりえただろうか?髪を撫でる風が清々しい。いやぁ、それにしてもあの絶望したような顔!写真撮っときゃよかった!久しぶりの心からの笑顔を浮かべながら部室を開ければ、右肩上がりだった私の気分も絶不調となる。
「花宮、ずいぶんご機嫌やなぁ」
「たった今不機嫌になりましたけどね」
なんでいんだよ。引退したはずの今吉が、部室の中のベンチに座って、挨拶がわりにに片手を挙げられる。私はもちろん返さない。ギリッと奥歯を噛み締めて、不機嫌さを隠しもせず表情に出せば、部室にいた他の1、2年は顔色を真っ青にさせた。
「は、花宮、とりあえず、メニュー表取りに行こうぜ、な?」
「死ね」
同じ2年のレギュラーである飯島に促されるまま、部室を出る。扉が閉まる直前に私がボソッと言った言葉が今吉に聞こえていないことを祈る飯島の胃はそろそろ限界らしい。
「なぁ、胃薬持ってね?」
「後でやる」
「恩に着るよ……」


『この胎(はら)は嘲笑ばかり産み出すの』





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