さらさらで艶のある黒髪、つりがちで少し大きい目、小さい鼻、桃色の唇、線の細い輪郭、綺麗な白い肌に薄く色づく頬、細い首、平均はある胸は形が綺麗で、きゅっとくびれた腰にすらりと長い手足。生まれ変わった私は、360度どこから見ても、誰が見ても、まごうことなき美少女になった。
「花宮さん、今日もかわいー」
「ありがとう……」
伏し目がちで、少し困ったように笑えば、目の前の女の子たちは喜ぶ。目が合った男の子には軽く微笑むだけでいい。憎もうにも憎めない、お人形さんみたいに可愛らしくて優しい女の子を演じきる。中学生の交友は女子を主体としておけば、少しは面倒事も無くなるだろう。誰にも気づかれないよう小さくため息をついて、空であるはずの机に手を突っ込めば、かさりと紙の感触がした。毎日毎日懲りないやつだ。手紙の筆跡はここ1ヶ月同じで、書いてある内容もだいたい同じだ。ついでに言うなら便箋の柄も同じ。だからといってどこどこにいついつ来いだとかは書いてなくて、ただ「好きです」の四文字。今まで害は無かったわけだし、いつかは無くなるだろう。たった四文字だけなのだが、ここまで続くとむしろ多少の好感を抱く。壁に耳あり障子に目あり。何があるかわからないので、こういったものは毎回丁寧に丁寧に鞄にしまうことにしている。今日も同じ。……同じ、はずだった。
「!」
教室でふざけていた男子が私にぶつかり、そのまま椅子ごと倒れ込んだ。はっとした彼が私に謝りつつ手を差しのべてくれたので、遠慮なく掴まり立たせてもらう。鈍い痛みはあるが、幸い軽い痣ですむようだ。
「あれ?花宮さん、これ……」
「あ……」
「ラブレター!だれだよ花宮さんに告った勇者!ハハハッ!……なんだ、名前書いてねぇじゃん」
「……」
「これ香緒里のじゃない?」
「……」
あぁ、面倒なことになった。なんてことをしてくれたんだとクラスメートに心の中で盛大に悪態をつく。俯く香緒里と呼ばれた少女は確か、名字を仲田といったか。あやふやな記憶を引っ張り出す。
「お前、花宮のこと好きなの?」
「ないわー」
「キモ……」
「……っ」
こういうときは、へたなことはせず、大人しくしておいたほうがいい。いいん、だけど。
「これ、仲田さんが?」
クラスメートに囲まれていて逃げ場の無い仲田香緒里の前に躍り出て、問いかけた。彼女は暫くの沈黙の後、小さく首を縦に振って、ぼろぼろと泣き出した。うっわぁ、なんて声がどこかからかあがって、心の中で、舌打ち。
「ありがとう。嬉しい」
ざわ、と一気に騒々しくなるが、聞こえる声は肯定的なものばかりで胸糞悪い。
「気持ち悪く、ないの……?」
「気持ち悪くない。私、手紙、嬉しかったの。性別なんか関係無いよ。でも仲田さんのことよく知らないから、ごめんなさい」「ううん、ううん、いいの。ありがとう、ありがとう花宮さん、ありがとう」
泣きながら友達に背中を押されて教室を出ていく仲田さんを見送って、静かに席に戻れば、気まずそうに手紙を私の机に置いていった男子生徒。ああ、彼はラブレターだなんだと必要以上に騒ぎ立てたやつだ。こいつに告白されたらトラウマになるくらいこっぴどくフってやろうか。


『君を救うことを許してください』





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