ひなげし | ナノ


死を臨む男


つい最近見たばかりの笑顔が、私の心を罪悪感でしめつけている。けれど愛しい少年にそれを悟らせるわけにはいかなかった。断ち切らなければ。自分がしてきた悪行の数々が脳裏を駆け巡る。しかし、最期に見えたのは、まるで息子のように可愛がっていたただ一人の少年の笑顔だった。



「影山が…死んだ…」
10代の子供は少し突けば壊れてしまうような危うさがある。それが私はとても怖い。怖くて怖くて仕方がなくて、それを何度も繰り返した。馬鹿なことかもしれない。でも私は諦められない。まだ希望はある。そう信じていなければ、私はすぐ闇に染まるだろう。一瞬のうちにソウルジェムはグリーフシードへ変質し、大切なものも躊躇いなく壊すだろう。
「鬼道くん…」
「すまない…今は一人にさせてくれ」
「…うん」
大丈夫。私はまだくじけないよ。だからあなたも前を見据えていて。いつもみたいに皆と笑っていて。大丈夫。あなたは一人じゃない。きっと彼はあなたの幸せを、笑顔でいることを、祈っている。だからあなたも彼の冥福を祈っていて。私は気の利いたことの一つも言えないようないくじなしだけれど、でも、皆で一緒に未来をみよう。



ねぇ、私も、一人じゃない、よね。



そのとき振り返った先にいた彼女は、笑っているのに、笑っていなかった。それが言い知れぬ悲しみを感じさせて、開きかけた口を閉じた。前を見よう。皆で一緒に未来をみよう。なんとなく彼女にそう言われた気がしたのだ。このとき俺は間違いなく彼女に救われていた。それをどのようにして伝えればよかったのだろう。ただ俺が言えたのは、たった一言だけ。けれどその一言だけでも彼女の心に届いていて欲しい。俺はそう願う。

「俺たちは一人じゃない」
「…うん、そうだよ。一人じゃない」
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