ひなげし | ナノ


夢を手折る


小さな植木鉢に、小さな花が咲いていた。それに向けていた視線を、生活感の無い部屋へと移す。おしゃれな家具も雑貨もあるし埃が積もっているわけではないけれど、どこか人が住んでいる感じのしない…まるでモデルルームのような部屋で、植木鉢が小さく小さく、存在を主張していた。その部屋の中で唯一生きているその小さな花が眩しかった。私には喉から手が出るほど欲しいものがあった。そこにあってそこにないもの。それは決して、お金では手に入らない。「愛されたいのは、皆一緒なのに。」



口の中にぶわりと広がる血の味に、吐き気がした。腕も足も傷だらけで、いくら痛みに慣れているとはいってもこんな拷問まがいのことによって与えられる苦痛は生まれて初めて味わった。大人は皆こんななのかと一瞬思ったけれど、そうでない人が多いのはもちろん知っている。わけのわからなくなっている頭の中で何を考えても、この状況を打破する何かは思いつかない。
「誰の差し金だ。」
「私の意思よ。文句ある?」
「…まだ痛め付けられたいようだな。」
「好きにすれば。」
滴る血液はだんだんと止まりはじめている。ぱっと頭の中に浮かんだたった一つの可能性。大人たちが私から目をそらした一瞬が勝負だ。鈍い音が、冷たいコンクリートが剥き出しの部屋に響いた。はたしてこの部屋でどれだけの人が苦痛を味わったのだろうか。
「ねえ、あなたたちは魔法って信じる?」
指輪から卵型へ姿を変えたソウルジェムを男の前へ転がした。男の意識が一瞬だけそれに向いた瞬間ソウルジェムは閃光を放って、私のための一瞬を作り出す。男が目を開いたら、そこに私の姿はもう無い。



グリーフシードの数はもう1つしかない。ひらひらとした衣装から、雷門中の制服に一瞬で変わる。ところどころ破れた制服の下は、ほんの少しの傷しか残っていない。本当は傷を治すための魔法すらもったいなかったけれど、全身傷だらけで見知った町を誰にも見られないよう駆け抜けることは不可能に近いのだ。ぜえぜえと学校の正門に手をついて息を整え顔を上げると、目に入ったのは誰もいないグラウンド。背筋が凍るように冷たくなった。魔女は、どこにいるの。
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -