ひなげし | ナノ


悪に擬態


強い人間なんてどこにも存在しないけど、もし本当に、本当に強い人間がいるんだとしたら。いるんだと、したら。その人は、いったいどんな人なんだろう。少なくとも魔法少女ではないんだろうなぁ、なんて。だって魔法少女は皆、心が弱いもの。きっと。
「風丸、私、キャラバンを降りるね。やらなきゃいけないことがあるの。きっと、私にしかできないことだから。」
「…頑張れよ。」
「うん。ありがとう。」
人より大分少ない荷物を手に持って笑えば、何がおかしいんだよって凄く変な目で見られちゃって、またちょっとおかしくなる。
「ねえ、もし私が悪いことしてたらどうする?」
「は?」
「まじめに考えてね。」
「…とりあえず説得する。」
「だめだったら?」
「はるのと一緒に悪いことってやつをやるかもな。」
「そっ、か。あは、凄く嬉しいかもしれない。」
「いや、とめてくれよ。」
「なにそれー。自分から言っておいてさぁ。」
「はは」
「…」
「…」
「…それじゃあ、またね。」
「…あぁ、またな。頑張れよ。」
「風丸も、ね。なんかあったら電話ちょうだい。すぐに駆け付けるから!」
「それは俺の台詞だろ、普通は。」
しめっぽいのは嫌だよね。お互いにわかってるから、最後まで作り物の笑顔を貼付けていた。




真っ暗な廊下を、できるだけ音をたてずに駆け抜けて行く。たどり着いた扉にそっと耳を押し当て、中から物音がするかどうかを確かめた。
「(…誰かいる。これは…大人だ。)」
舌打ちしたいのを我慢して、ゆっくりと扉を開けていく。と、その瞬間、ばちり、まるでそんな効果音が出そうな程しっかりと中にいた男と目が合って、急いで扉を閉めようとするが向こうの方が早く私の腕を掴み病室の中へ引きずり込んだ。
「いたっ…」
どん、と床に押し倒されて、首筋に冷たい金属が当てられた。滲んだ痛みに思わず顔が歪む。背筋にぞわりと悪寒が走って気持ち悪い。微かに震える体を必死に宥めてきつく男を睨んでも、大した意味はないらしい。
「雷門のマネージャーだな。」
「だったら何。」
「ちょうどいい。…拘束する。」
エイリア石を目の前にぐっと近づけられて体から力が抜ける。視界がぼやけて、自分が何を考えてるかもわからなくなっていった。
「かぜまる…」
私の声は、彼に届いていただろうか。
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