少女行方不明につき、
草木をかき分け黙々と前進し続けて、一体どれくらいの時間がたったのだろう。四方八方全てが木、木、木、草、空…。変わったことと言えば空が暗くなってより一層視界が悪くなったことだろうか。まったく、ここはどこなのか誰か説明してくれ。ため息をつきながら草をかきわけていると、棺が視界に映った。こんな場所に、棺?
「…これは」
空っぽの棺付近にはまだ新しい足跡がある。これを辿って行けば、もしかしたら。きゅっと拳を握り立ち上がり、疲れを訴える体を鞭打って歩きだした。
誰かいる。寒い寒いと体を抱えながら歩いていると、遠く、木々の隙間からちらりと何かが動いているのが見えてそっと近づく。今は何も持っていないので、警戒するに越したことはないのだ。自分のできる最大限で気配を消して、距離を詰めていく。
「沢田くん」
なんだ。なんだ。警戒なんてする必要もない相手だった。彼は間違いなく敵ではなくて、今何が起きているのかきちんと把握、しているはず。私が思っていたよりも盛大に驚いてくれた沢田くんに、笑いながら大丈夫ですかと声をかけた。
「沢田くんのオーダーリアクションでヒメちゃん大爆笑です」
「はは…オーバーリアクションのことだよね…?」
リングに巻いておけと差し出された鎖を大人しく巻き付けて、ところでここはどこでいつで今なにがおこっているのかという疑問をなんとか全てぶつけると、困ったように視線がそらされて私が何か悪いことをしたかのような錯覚に陥る。
「えーと、その…。」
たどたどしく説明をしてくれた沢田くんにお礼を述べて、バレないていどに息を吐き出す。この森にいるのは気分が悪い。かすかな血のにおいと滲む殺気が私を包み込んで、落ち着かない。糸はない。自分を護るためのものが何一つ無くて、ひどく、…そう、これは、不安。ひどく、不安になるのだ。