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温もりを下さい


今日はいい天気だった。気温、湿度、ともに良好。この町で一番好きなカフェで一人涼みながら小説を開いていたときのことだった。

「あ、」

建物が崩れ硝子が割れ、それとともに広がる砂埃拡がる悲鳴。だんだんと酷くなりながら近付いてくるそれらに微かに懐かしさを覚えながら、本を鞄に突っ込んで立ち上がった。

「まったく。おちおち本も読んでいられません」
「名前ちゃん!い、いつの間に!?」
「行ってください、沢田くん。こういう単純そうな相手なら落勝ってもんです。」
「い、意味わかんないよ!いいから早く!名前ちゃんも逃げよう!」

ぎゅっと握られた手首から伝わってくる体温は想像以上に低い。彼は、怯えているのだ。誰に対してか、なんて、あの銀髪の煩い男に決まっているというのに、私は何故か、私に怯えているような気がして引っ張られるままに走り出した。



(なにもかもを見通してしまいそうな瞳が、あの人に被ってしまった。)
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