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Oneday




ぽかぽかとあたたかな日差しの下、少女は本を読んでいた。タイトルは源氏物語。10歳程の少女にはまったく合っていなかったが、少女は気にしていなかった。
ふと顔をあげた少女の視線の先には、年の近そうな少女が一人、ぽつんと立っていた。


「どちらさま?」
「匂宮理澄って言うんだもん!おねーさんは?」
「私はナマエって言うの。日本語おかしかったらごめんなさい」
「わぁ、外人さんなんだね!」


にこにこと笑う理澄に笑みを返すと、笑みが深まる様子がなんだか嬉しかった。同い年の友達なんて、今までいなかったからかもしれない。
チェスくんっていう男の子がいるらしいけれど残念ながらまだ会えたことはない。


「ナマエちゃん今日は何読んでるの?」
「えっとね、みみなしほういち…ってやつ」
「耳取られちゃうやつだね!」
「うん」


日本に滞在していたのは半年だけだったけれど、私達はほぼ毎日会っていた。この時があったからこそきっと今の私がいるのだろう。なんて。


「りずむ、ちゃん?」
「あーん?理澄の知り合いかよ」


違かった、らしい。けれどとても似ているから、理澄ちゃんが言っていたお兄さんなのかもしれない。
ずっとずっと前のことだったけれど、なぜか理澄ちゃんのことなら沢山思いだすことができた。同年代の友達が彼女しかしなかったからだろうか。


「あ、えっと、すみません。理澄ちゃんのお兄さん、であってますか?お名前聞いても?」
「あってるぜ。名前は匂宮出夢。おねーさんは?」
「ナマエっていいます!」


扉を吹っ飛ばしたのは、暇だったから。らしい。どんだけだと思いつつ、しかし何も言えず美術室に入り、遠くの机に腰掛けた。


「えっと、理澄ちゃん、元気ですか?」
「死んだよ」
「え?」


信じられないことをさらりと言ってのけたその唇を見つめていると、彼女…否、彼は声をあげて笑った。


「おねーさんはさー、こっちの人間だろ?知り合いの1人や2人、死んだって…っておいおいマジかよ」
「…知り合いが死ぬのは、初めてだよ」


ぽたりぽたりと落ちる涙を自然にとめることができなくて、ぐいぐいと目元を擦っていると、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「出夢くん…」
「ありがとな」


その笑顔が優しくて、また、涙が溢れた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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