long | ナノ


stupid question


目の前に食べ物があったなら、食べるのが礼儀ではないだろうか。少なくとも私はそう考えていた。目の前から香ばしい匂いを漂わせるそれを見て、ナイフとフォークへ手をのばした。



理事長や玉藻ちゃん。さらには萩原先輩までもが亡くなり、学校は廃校。バタバタと手続きなどで忙しいなか、私はかの有名な人類最強の請負人にまさかの呼び出しをくらっていた。

呼び出された先は、病院の、屋上。なんだそのチョイス。

「来ちゃったよ…」

屋上へと続く分厚い扉を前にして、頭を抱えて深呼吸。そしてゆっくりと扉を開けると、やはりというかなんというか、赤い、彼女がフェンスによりかかり立っていた。ああ、様になっている。…、太陽の光が眩しいなぁ。

「遅かったじゃん」
「すみません…あの、私はどうして呼ばれたんでしょうか」
「ん、一姫と仲良しだったらしいじゃん。だから、心配してんじゃないかなー、って」
「え、一姫?潤さんと一緒だったんですか?」
「おぅ。ほら、あの木の下」

フェンスの向こうを見ると、たしかにそこには、一姫がいた。嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに笑っている。それは私が、初めて見た表情だった。

「あの…となりの彼は?」
「ん?あぁ、いーたんか」
「いーたんさんですか。不思議な名前ですね」
「本名を知ると死ぬらしいぜ」
「前言撤回します。嫌な名前ですね」

ほんのすこし笑って、一瞬の沈黙。

「もうあいつには必要ないだろうから、名前がこれもらってやってくれよ。練習中なんだろ?」
「でも、これは…」
「これがあったら、あいつまた使っちゃうだろうが。ほれ、」

黄色と水色のポシェットを半ば無理矢理押し付けられるようにして受け取ると、一緒に紙袋も渡された。頭にクエスチョンマークを浮かべていると、赤い彼女はそれはもう素敵な笑顔で言い放った。

「じゃーな!」
「え、」

体が宙に浮いた。叫ぶ間もなく落ちていって、おそらくは意識を失ったのだろう。

そして、冒頭に至る。
むぐむぐと肉を頬張りつつ、これからどうなるのだろうかと考える。
とりあえず、と、紙袋に入っていた帽子とコートを着用してみた。サイズぴったり。なんか悔しい。
膝丈のコートは軽くて動きやすかった。なんか悔しい。
ポシェットをコートの中で肩にかけて、何がおきてもいいように構えていると、ちん、と音が鳴って扉が開いた。

眼前に広がった景色に帽子を目深に被りなおして、小さく溜息をついた。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -