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欺く彼女の処世術


苗字名前は転勤族と呼ばれる家庭で育った。

短いときは一週間だけのときもあったし、けれど長いときは1年いられるときもあった。
そんな日々を過ごしながら、彼女は生前の日常を思い出してはため息をついていた。

べつに今の生活が嫌だというわけじゃない。両親の仲はよく、今までにできた友達とは連絡を取り合い、近くにきたときは会ってみたりと、なかなかに充実した日々を送っているのではないだろうかと思う。

ただただ、ほんの少し、ほんの少しだけ、物足りなかった。あの人達に会いたいと願いながら、けれどもう二度と会えないことにため息をつく。

新しい学校の、開かれた扉の先に彼らがいてくれたらとほんの少しの希望を持ちながら、彼女は笑った。



低い背に、大きな黄色いリボン。ただ前と違うのは、肩下まで伸びた青い髪。

「苗字名前と言います。これからよろしくお願いします」

にこにこと笑えば、ほら、みんな騙される。

本当のわたしは彼らの中にはいない。彼らの中には彼らはいない。
思わずつきそうになるため息を堪えて、ただひたすら笑う、笑う。

そして言いようのない虚無感をも表に出さず楽しそうに笑うわたしは、やっぱり寂しいのかもしれない。
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