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いっつも、ざんこく


赤黒い目をした少女が立っている。暗く澱んだ目をした少女がじっと私を見つめている。ただ静かに、ただ動かずに、ただただ私を見つめている。

「声帯と、胃と、左目と、あと、なんだったかな」
「…」
「今は全部あるよ」
「…」
「友達も」
「…」
「家族も」
「…」
「ごめん」
「…」
「ありがと」
うん

赤黒い目をした少女が立っている。暗く澱んだ目をした少女がじっと私を見つめている。ただ静かに、ただ動かずに、ただただ私を見つめている。けれどその表情は少しだけ、晴れやかだった。





「名前、それ…」
「?」
「首に跡が、」
「うん」
「うんじゃなくて…」
「大丈夫」
「名前…」
「もう魘れないから」
「…」
「行こう。3回目の、水がくる」
「死ぬなよ」
「当たり前」





外に飛び出した瞬間、空から降ってきた水はジャラジャラと音を立てて、一カ所に集中していた。それを静観している集団に厭なほど見覚えがありすぎて、思わずこめかみを押さえて唇を噛んだ。命は容易に背負えるほど、決して軽いものじゃない。

「なんだよあれ…!」
「行ってくる」
「は?ちょっと、名前!?」
「多分4組がやらせてる。止めないと」
「だからって今行ったら名前も危ないだろ!」
「大丈夫」
「名前!」
「大丈夫」
「…」
「行ってくる」
「…、死ぬなよ」
「当たり前」

駆けて来た私に気付いた、おそらくは1組の集団。並んで立っていた朝音と比良坂アイラの肩に、すれ違い様に一瞬だけ、そっと手をおいて微かに後ろに下がらせた。

「何してるの」
「苗字さん?」
「戦わせてんだよ」
「今すぐやめさせて」
「は?」
「壁をといて」
「何言ってんだよ!この二日間どれだけうちのクラスが、」
「"うちのクラス"だけじゃない」
「それはっ」
「彼女達の命を背負えないのに、殺そうとしてる」
「違う、殺そうとなんてしてない!」
「だったら壁を消して。手伝えば死なない」
「でもそれだといつまでもあいつは文字を使わないだろ…!」
「…もういいわ」
「は?」

ぱあん、と音をたてて、顔しか知らない今まで話していた男を吹っ飛ばした。数メートルほどごろごろと転がり呻く男には全く視線を向けず、私は壁へ向かった。微かに深呼吸をして、カッターで腕に深々と傷を付けると、つうっと腕をつたう血。私はそれを、壁へと容赦なく突き刺した。私が壁を破壊するのと、女の子が死んでしまったのは、ほぼ同じタイミングだった。
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テーマ「人外ファンタジー」
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