きょうは、ざんこく
「朝音ちゃん、大丈夫?」
「あ…アイラちゃん…」
じっと夕食を見つめていたらしい。わたしは顔を上げてできるだけいつも通りに笑ったつもりだったけれど、アイラちゃんには心配そうに「無理しないで」と声をかけられてしまって、精一杯の笑みも苦笑いへと変わった。わたしは今とても会いたかった。あの濁ったようで澄んでいる瞳を見たかった。一瞬だけでよかった。一瞬だけでも、今日の蝕…水のことを忘れられれば、また明日ある蝕にも堪えられる。けれど見渡しても探しても、名前はどこにもいなかった。
「朝音ちゃん?」
「アイラちゃん、」
「なに?」
「…やっぱりなんでもない」
「…、そっか、」
寂しそうにそう言ったアイラちゃんには申し訳なかったけれど、わたしには名前より大事な人なんていないから。
「もう、部屋に戻るね」
「あ、うん。お休み、朝音ちゃん…」
とぼとぼと自室への道を歩いていた。そういえば、結局夕食を食べることはなかった。アイラちゃんだって、大切な友達にはかわりないというのに、ほんとうに、悪いことをしてしまった。後でちゃんと謝りに行って、それから…。そこまで考えたところで、思わずわたしの足は止まった。視線のずっと先には、探していた名前が静かに笑いながら歩いていた。隣に立っているのは、いつかのわたしではない。松葉杖をつきながら歩く、片足のない女の子。意志の強そうなその雰囲気は、まるでわたしとは正反対。同じ部屋に入って行った二人はおそらくルームメイトなのだろう。そういえばわたしは、わたしが思っていたよりも、名前のことをなにも知らないのかもしれない。
「あーあ、」
自嘲を浮かべ、あの女の子がわたしだったらいいのにと、何度も強く願った。