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16:22


あ。と、声を出したのは私か出夢か。窓から見えたのはバケツをひっくり返したような土砂降りの雨。出夢に視線を向けると、首を振って答えられた。職員室に貸し出し用の傘とか、あるかな。



「これが最後の一本なのよぉ」
「え、」
「まぁでも大丈夫ね。相合い傘とかするつもりだったんでしょう?いいわねー、若いって」
「いや、あの、」
「それじゃあ気をつけてね」

閉められた扉を見つめて、それから出夢と目が合って、少し困ったように笑う。

「行こっか、出夢」
「…」
「出夢?」
「…早く行こうぜ」
「え、うん」

出夢の横に並ぼう必死で追いかけるけれど、出夢は早歩きをしいているだけだというのに、私は若干走っていた。出夢も、男の子なんだ。

「…、出夢、」
「…」
「出夢…」
「…」
「いず、」
「いらない」
「え?」
「僕はこんな感情いらない。これは弱さだ。理澄を守るために僕は強くなきゃいけない。僕に今必要なものは圧倒的な強さと微かな弱さ。僕はこんな感情、知らない!」
「……それは、どういう、意味…?」
「名前に会わなきゃよかった」「…」

なんで、とは聞けなかった。体は一時停止をかけたように動かない。頭も上手く働いてはくれず、ただただ無意味に出夢のいた場所に視線が向く。雨は耳が痛いほどに音をたてて降っていた。傘が音を立てて床に落ちる。傘のその透明なビニールに、歪んだ私がうつっていた。
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