※居酒屋≠バール
※日本のよくある居酒屋を想像して頂ければ。


 ダンッ
 と音を立てて、空になったジョッキが叩き付けられる。それを挟んで向かい側、赤ら顔のプロシュートの目は完全に据わっていた。一体何杯飲んだのだろう。明らかに飲み過ぎだ。そんなプロシュートに小一時間付き合っている俺にも、同じことは言えるわけだが。
「……俺はよぉ、いくら恋人同士になったからって、そう簡単にあまーい言葉は吐かないぜ」
 俺の鼻先に突きつけた焼き鳥をふらふらと揺らしながら、プロシュートは続ける。
「だってそれは女の仕事だろ?媚売って摺り寄って、猫みたいに甘えるのは女がやること。ところがどっこい、俺は男だ。……だからよ、付き合い始めて三か月近く経つのに恋人らしいことが何一つないのは、俺のせいじゃないってわけだ。テメェの力不足がわりーんだよ。わかるよなァ?リゾットさんよ」
 言いながら脇に置かれた瓶をぐわしと掴んで、ビールをどぼどぼとジョッキに注ぐその仕草は実に男らしい。……が、俺のジョッキにまで入れるのは正直勘弁願いたかった。もうそろそろ止さないかという俺の無言の訴えは、勿論聞き届けられず。溢れた泡が静かにジョッキを伝って落ちて行く。空気を読んだ店員が、何も言わずに空いた皿を下げて行った。
 先ほどのプロシュートの言葉を酔った頭でどうにかかみ砕こうと試みるものの、それは亀の歩みの如く遅々として進まなかった。ただ、じっとこちらを見る緑の瞳をボンヤリと見つめ返しているうちに、一つだけ思いついたことがあり、俺は酔いで重たくなった口を開いた。
「……要は、全身全霊をもってお前を口説けということだな」
「そういうこと。頼むぜリーダー」



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