ごしごしごしと、まるで身を削るような音をたてながら磨かれていく広い背中を、僕は温かい湯船に浸かりながらぼんやりと見ている。
 持ち主のセンスが光るヒトデ型のスポンジ。それを握る青色の手は、そのゴツさに似合わない実に精密な動きで最後の上下移動を終えた後、桶に溜めていたお湯で泡立った石鹸を残さず流し、ぼやぼやと立ち込める湯煙に溶けるように消えていった。
「終わったぞ花京院。交代だ」
「……」
 振り返った承太郎の顔を見て、僕は思わずため息をついた。
「……最強のスタープラチナは、そんなふうに使うものじゃないだろう」
 呆れながらも、僕は言われた通り湯船から出る。八分目くらいにまでお湯の溜まったそこに体を洗い終えた承太郎が浸かれば溢れたお湯が滝のように流れ出した。ああもったいない。しっかりと肩までつかった承太郎はそれをまるで気にする様子はなく、憮然とした顔をしている。
「自分でやるんじゃ届かねえ場所があるんだ。仕方ねえだろ」
「だからってスタンド能力使うかな。たわしタオル使えばいいだろう」
「あれだと洗った感じしねえんだよ」
「……」
 君は一体どんな皮膚をしているんだという感想を辛うじて飲み込み、僕は自前のスポンジに手を伸ばした。こちらはサクランボの形をしているとかそういうことは勿論なく、ごくごく普通の洗面用具である。
 ボディーソープをとって泡立たせてから、腕にスポンジを擦り付ける。散った小さなシャボン玉が虹色に光を反射させてふよふよと浮くのがすこし面白い。
「背中、洗ってやろうか?」
 承太郎がからかうように言った。
 背中を洗ってもらうなんて、幼いころに母親にしてもらったきりだ。少し恥ずかしくて思わず戸惑ったが、せっかく二人で入っているのだからそれもいいかもしれないな、と思い直した。
 なんだか楽しい気分になってきて、僕は少し笑いながら、頼むよ、と承太郎の手にスポンジを預けた。



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